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55❤︎④

 そうこうしていると、葉璃と恭也はADの女性から呼ばれ別部屋でのヘアメイクのセットに向かって行った。  危うく抱擁しているところを見られてしまいそうになったが、楽屋に近付いてくる足音を敏感に察知した恭也とルイがすかさず動き、聖南と葉璃をうまく隠してくれたおかげで難を逃れた。  こういう時に、二人の仲を知る仲間のありがたみを強く感じる。  聖南と葉璃の交際を容認してくれている事もだが、身を挺して秘密を守ろうと行動してくれた事にも、聖南は感動を覚えた。 「セナさん……感情のままに行動したらあかんっすよ」  ルイと二人きりになり、聖南が感謝を伝えるより先にさっそくお小言を言われてしまったが、それも仕方がない。  先程は本当に、我慢がきかなかった。  一昨日の件に引き続き、二度目のお叱りも甘んじて受けるしかない。 「……マジでな。反省してる」 「ほんまっすか?」 「いや、あんまり」 「あかんやん」 「フッ……」  業界の者からは若干恐れられる傾向にある聖南へも、ルイのツッコミは遠慮が無い。  だがなぜか嫌な気持ちにならないのは、ルイの人柄の良さを知っているからだろう。それに加え、ETOILEには必要不可欠な、物怖じしない性格というのも買っている。  無条件で葉璃を愛でるようになってからは些か不安の種だと案じていたが、恭也ともうまくやっているようなのでそう心配する事もない気がしてきた。  自分が常にツッコミ役だと騒いでいたルイに隠れ、恭也こそが三人のまとめ役だからだ。  恭也さえ居れば、彼らはうまくいく。  それは仕事面においても、私生活においても、だ。 「お二人さんて、セナさんから……なんすよね?」 「ん? 俺と葉璃のこと?」 「そうっす。あのハルポンが……なわけないし、セナさんがこれでもかいうくらい押さんと、あの鉄壁の鎧は脱がんでしょ」 「そうだなー……大変だったぜ、マジで。紆余曲折、四苦八苦、粉骨砕身、そんで今がある」 「ほぉ、てことは一目惚れ……いう事っすか? メディアで話してるんはマジの部分も混ざっとるんすよね」 「そうだな。嘘は吐きたくねぇから、まぁちょっと表現を脚色したり控えめにしたりはしてっけど。ほぼガチ」  へぇ、と感心するように頷いているルイからは、どうにか聖南から真実を引っ張り出そうとする記者のような俗物的な雰囲気を感じない。  二人の熱々ぶりを直に見た事で、身近な者の恋話を聞きたいという興味が湧いたようだ。  しかもその二人は、トップアイドルと新人アイドルという禁断過ぎる仲なので、どんな経緯で付き合う事になったのか知りたがるのも分かる。  この先も公私共に世話になるルイにならば、ざっくばらんに話したとて構わないと聖南は思った。 「愛されてんなぁ、ハルポン。スバリ、セナさんが思うハルポンの最大の魅力は?」 「魅力? んー……」  万が一にも他者に聞かれるわけにはいかないと、聖南の隣に腰掛けたルイはいつもの声のトーンを控え、かなり静かに喋っている。  インタビューでよく聞かれる内容だったが、問われた聖南は即答しなかった。  それこそ、ルイにならばときちんと胸の内を語ってやろうとしたのだが、腕を組んでしばし考え込む。  ──葉璃の魅力……魅力かぁ……。  改めて考えてみると、そうすんなりと答えは出てこなかった。  葉璃への好意に直結するであろう〝魅力〟を考えた時、一番に浮かんだのはやはり顔だった。それも、ふわっと花開くような笑顔である。  だが葉璃の魅力はもちろんそれだけではない。  いつも彼には直接伝えているが、知れば知るほど、同じ時を過ごせば過ごすだけ、話し方や内面の無垢さにも強く惹かれ、聖南はもはや葉璃に首ったけなのだ。  一言では到底、彼の魅力は伝えきれない。 「めちゃめちゃ悩むんすね」 「いや、……」  最大の魅力は、と問われたからにはどれか一つに絞って答えるのが正しいのだろうが、聖南にはとてもどれかを抜き出す事など出来ない。 「悩むってか、ありきたりな事しか言えねぇなぁと思って」 「ありきたり?」 「ん。恋人の好きなところは?ってインタビューでもちょいちょい聞かれんだよ。でもそん時は答える度に違う回答してんのね、俺」 「あぁ、特定避けで?」 「それもあるけど、小出しにしてるっつーか。だって全部なんだよ。……全部好き」 「わーお……」  両手を胸元で広げ、控えめな声量のわりに大袈裟なリアクションをしたルイの反応に、なぜか聖南は少々照れた。  わざわざ二度も言う必要は無かったと思い、気恥ずかしさに右手で口を覆う。  〝最大〟が選びきれなかったのだから、ありきたりで月並みな回答にもなる。これはおそらく、葉璃本人から問われても同じ反応で同じ事しか言えない。 「たしかにありきたりっすね。付き合いたてのカップルに聞いたら大概そう言うてんの聞いたことありますわ。ただ……セナさんはガチなんすもんね」 「……まぁ」 「そこで照れてんのもガチっぽいっすわ」  クールを気取る聖南が本気で照れる姿を見て、ルイがまたもや「熱々ですやん」と笑っている。  時折二人の関係を知る者達を唖然とさせてしまう事もあるほど、世間的にはバカップルという括りに入るのだろうと自覚はあるものの、そう何度も客観的な感想を言われると照れてしまう。  もういいだろ、とばかりの視線をルイに送り、葉璃が戻って来る前に顔の火照りを何とかしたい聖南は質問返しをした。 「てか急に何なんだよ」 「いやいや、なんも無いっすよ。どっちから押してどうやってそうなったんか、単純に知りたかっただけなんで」 「ふーん?」 「俺、つい最近やっと分かったんす。ハルポンの秘密」 「……秘密? どれ?」 「どれって、そないに何個もあるんすか!? 俺がまだ知らん秘密が……!?」 「ん、ルイはもうほとんど知ってんだろ。あと知らねぇっつーと……最初の秘密?」 「最初の秘密、……おそらく。セナさんとハルポンの出会いがそれやと聞いたんで、当たっとるかと」  すでにヒナタの任務は彼に打ち明けているし、葉璃の秘密と言えばあとは春香の影武者の件についてしか思い付かない。  それが聖南への即席インタビュアーとどう繋がるのかは分からないが、〝やっと〟と言うからには葉璃の秘密とやらが前々から気になって探っていたという事になる。 「ちなみに何で分かった? 誰かに聞いた?」 「それが、誰も教えてくれんのですよ。ヒントは教えてもろたんすけど。恭也にmemoryの出演番組を片っ端に見まくったら分かる、言われて」 「なるほどねぇ。……で、気付いたんだ?」 「はい。upされとる動画を見まくって、ようやく。入れ替わってましたわ」 「そうそう、それ。よく気付いたじゃん。初見じゃ絶対に分かんねぇだろ」 「まぁ。でも俺はもうハルポンはどんな姿でおっても分かる気しますわ」 「ヒナタにメロメロだった奴がよく言うよ」 「せやから〝もう〟言うたやないっすか! てかその名前はまだあかん! まだ傷口癒えてないんすよ!?」  ルイにヒナタの名は禁句に近いというのに、聖南はニヤリと笑って「そうだった」とうそぶく。  少々意地の悪い事を言ってしまったと思いながらも、彼の想い人であるヒナタさえも聖南のものだという認識付けをしておきたかった。  そしてその考えが正しかったと思わざるを得ないこんな呟きを、聖南は聞き逃さなかった。 「はぁ……ヒナタちゃんかわいかったなー……。もっぺん、泣きの一回でええから生で見たいっすわ……」

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