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「──どうかな。いけそう?」
相手の相槌もそこそこに長々と語った後、腕を組んだ聖南は苦々しく問うた。
語る間、あまり良い反応ではなかったためにここでまた躓くわけにはいかないと、しっかり頭を働かせている。
『そう上手く事が運びますかねぇ……』
やはり敏腕マネージャーと言えど、簡単な話ではないようだ。
聖南は今しがたツアーの会議を終えたばかりである。
密着班に次の仕事の目的地を伝えるなり早々に愛車に乗り込み、エンジンをかけるや通話を繋いだ。
その相手とは、件のプランを遂行する上で最も重要な協力者となる予定の佐々木だった。
プランの全貌を語り、さらには〝ヒナタ〟を公表する上でLilyの復帰をもサポート出来ると話しても、彼は彼なりに思うところがあるのだろう。
佐々木の声色は終始堅いままだ。
「何だ、樹のくせに弱腰じゃん?」
『そりゃあそうですよ。こちらは売り出し方さえ決め兼ねてるんです。葉璃が絡む事ですし、協力したいのは山々ですよ。プランそのものも概ね賛成ではありますが……』
「引っ掛かるのはLilyの復帰方法か」
『そうです。再び彼女たちを第一線にとなると、やはり……。私にも一応プランがありますが……』
「それ聞けたりする?」
『……セナさんだからお話するんです。他言無用で頼みますよ』
「あぁ、もちろん」
過去はともかく、仕事上では誰が何と言おうと頭脳派である佐々木のLily復帰プランに、聖南は興味津々だ。
なぜなら聖南でさえ、現時点からのLilyの復帰はかなり難しいと思っている。
事務所の移籍やその他諸々について、皆が納得するような説明が未だ成されていないのだ。
今後の事務所の対応次第では、今残ってくれているファンすらも離れてしまうかもしれない。
しかしながら佐々木の手腕を買っている聖南は、そういう状況だからこそLilyの内部の立て直しを含め、彼ならやれるという確信があり託そうと決めた。
『……元々Lilyはネームバリューがあります。ですがアイの離脱、ヒナタの加入、事務所の移籍、元所属事務所は事実上の倒産、現在Lilyは活動停止状態……それぞれ憶測が憶測を呼び、ファンは現在非常に混乱しています』
「そうだな。ぶっちゃけその点は俺も危惧してる。そもそも六月の特番にLilyが呼ばれるかどうかも怪しいよな」
『それなのにあんな大それたプランを打ち立てたんですか? セナさん、あなた正気ですか?』
「ガチで言うと、プレッシャーかけるわけじゃねぇけど樹の手腕なら可能だと思ってる」
『……過大評価は時にありがた迷惑にもなり得ますよ』
「悪い。でも樹の場合は過大評価じゃねぇだろ」
佐々木のいつになく謙虚な姿勢は、はじめは聖南のプランに協力したくとも現状では不可能である事を言外に訴えているのだろうと思った。
さすがに無謀だ、そんなに簡単な話ではない、と。
だがしかし、──。
『私のプランとしては、まずは事務所移籍の経緯をファンクラブ会員に書面でお伝えし、その後四月頭からSNSを利用し彼女たちの新曲をバズらせたい。その一点に集中し、実は裏で動いています』
「バズらせるっつーと……歌? ダンス?」
『両方です。ショート動画でバズれば一気にSNSのユーザー内に広まります。これを利用しない手はありません。これまでどれだけの無名アーティストが発掘された事か。過去の良作が見直されたり、人気が再燃したり、動画サイトはアーティストとしてもう一度花を咲かせられる重要コンテンツだと考えています。memoryもはじめはその手法で売り出しましたから』
「あーそうか。そうだった。memoryも最初は動画サイトでの活動からだったな」
『そうです。すでにネームバリューがあり、しかも今なら色々な意味で話題性もあるLilyが公式にSNSを始めたとなれば、ファンのみならず野良と呼ばれる野次馬も視聴者層に取り込めます』
「……なるほど」
聞けば聞くほど佐々木のプランは現実的で、彼の頭の中ではすでに、そうなると必定する未来が見えているかのようだった。
佐々木は売り出し方に引っ掛かっているのではなく、うまく時代の波に乗れるのか、ファンがそれを受け入れてくれるのか、自身のプランの中核を不安視していそうである。
それは聖南も同じだ。
プランそのものには絶対の自信がある。
すべての歯車が噛み合えば、おそらく聖南の思惑通りになる。
とはいえ少しでも準備を怠れば、何一つ成功しないという恐ろしい結果を招く危険もある。
それは葉璃が抱いた不安などよりも遥かに大きなもので、何もかも悪い方へ事態は転び、同時にプラン発案者である聖南に〝責任〟が生じるのだ。
聖南が一番憂慮しているのは、自身がそれを被る事よりも、関わってくれる皆が不必要に叩かれる事。
世の流れを見ていると、ほんの些細な事でも、目に付くたった一つの事で相手を必要以上に攻撃する、もしくは出来てしまう時代だ。
佐々木はもちろん、これからを見据えている聖南もその時代の波が重要であると考えるからこそ、利用するにあたって不安が残る。
まさにそれは、賭けに近いからだ。
「ちなみに曲とダンスはどうなんだ。四月頭からっつーともう上がってんだろ」
『曲はこれまでLilyに提供してくださっていたチームにお願いしました。そしてダンスなんですが……彼女たち自身が話し合って振り付けを考えました』
「へぇ! それ樹が提案したんだ?」
『はい。彼女たちに足りないのは、調和と、そして何よりお互いを知るための会話だと感じたもので』
「……さすが樹だ。よく見てんな。まぁでも……大変だったろ」
『それはもう……。何度セナさんを恨んだ事か』
「面倒事押し付けやがってーってか」
『はい』
葉璃によると、Lily内では三つの派閥のようなものがあり、発言権はそのうちの一つに限られていたそうだ。
主に葉璃に冷たくあたっていたのもその者達で、マネージャーの足立ですら手を焼いていたように見えた。
見て見ぬフリをしていたメンバー等に至っては、はじめは自己紹介すら無くなかなか名前を覚えられなかったと、珍しく葉璃が苦笑いしていたのを思い出す。
そんなメンツをまとめるのは、それはそれは骨が折れたに違いない。否、現在進行系で心中では聖南に恨み節を吐いているかもしれない。
あの佐々木がそんな本音を聖南に吐露するとはよほどの事なのだが、『もう一度Lilyを第一線に……』と、他でもない佐々木が志高い発言をした事で、やはり彼に託して正解だったと思った。
『それで、葉璃は元気にしていますか? 出演番組は欠かさず観ていますが、オフではまったく会えていないもので』
「元気だよ。てかスケジュール合えばになるんだけど、葉璃連れてそっち行こうと思ってんだよ」
『いつですか? 今日? 明日?』
「そんな近々じゃねぇよ」
『……糠喜びさせないでくださいよ』
「樹に会わせに行くんじゃねぇからな? 新曲の振付け教えてもらわねぇと、特番で揃えらんねぇだろ」
『だからまだバズると決まったわけじゃ……』
「Lilyだったらイケる。樹の考えそのまま進めりゃいい。誰がケチ付けようが、樹のプランを押し通せよ」
『まったく……簡単に言いますね』
あくまでも弱腰な態度の佐々木だが、聖南には不敵な笑みを浮かべているようにしか思えなかった。
元々Lilyは、歌唱力にもパフォーマンス力にも定評があり、派手めのメイクは奇抜で衣装にもかなり拘っていて華があった。
メンバー間にアイドルとして続けられないほどの亀裂が入らなければ、あと数年は安泰だったであろう実力派だ。
しかしながら、〝ヒナタ〟含め昨年の様々な件が無ければ事務所内の悪事を暴けず、誰にも手を差し伸べてもらえずに共倒れになっていた可能性がある。
その点を鑑みても、偶然にしろ葉璃の功績はかなり大きい。
広いステージで何万人もの観客を前にパフォーマンスし、これまでを称えるに値すると改めて思う。
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