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59♡②
「あ、じゃあ俺、着替えてくるんで……あの、……呼んだらどっちか迎えに来てくれない?」
「迎えに?」
「迎えに?」
「そうなんです。説明するより見せた方が早いと思うんで、とりあえず行ってきます!」
「う、うん……?」
「おう。行ってら〜」
俺の下手くそな説明を長々とするより、ジャーン!と見せた方が二人には伝わりやすいよね。
いったいどんな衣装なのって、恭也は眉間にシワを寄せてすごく心配そうだけど、対してルイさんはケロッとしてる。
見た目も衣装も対照的で、しかも性格まで真反対なのに、気が合う二人は今日も一緒にここまで来たみたいだもんな。
並ぶと眼福な上に、どんどん仲良しになってくところを見られて、俺は嬉しいや。
へへっと気味悪く笑いながら、俺は衣装を手に洗面所に向かう。
シャツは難無く着られた。けどやっぱりこの時期にシースルーは寒い……と思いきや、袖がある分、室内だとそうでもなかった。
そして問題の人魚ズボン。
改めて見ると、ツルツルテカテカでキラキラなラメ付きのこれは……かなり派手だ。
やだなぁ。目立っちゃわないかなぁ。いや絶対目立つよね……。クスクス笑われたら恥ずかしいなぁ……。
そんなことを思いながら足を入れてみると、ぺたんと地面に足がついた。
「あっ? こ、これどうなって……っ?」
尾びれがあるのになんで足がつくんだろうと、一回脱いで確認してみた。
するとなんと、人魚ズボンはチャック開閉式だった。
チャックを閉じると足が布に包まれて完全に人魚に。開くと尾びれがヒラヒラっと開いて、裾が豪華なスカートみたいになる。
こんなに凝った服は触ったこともないから、全然分かんなかったな。
なーんだ、これだったらチャックさえ開けてれば、小刻みにはなるけど歩けない事はないじゃん。
「──いやいや、……っ」
それはいいとして、駆け付けてくれた二人になんて言うの。衣装に着替えたその姿のまま大急ぎで来てくれたんだよ。
「やっぱ大丈夫だった〜!」なんてヘラヘラ笑って言えないよ、俺。
人魚ズボンが実は人魚スカートにもなるなんて知らなかった。確認不足、とも言う。
うわぁ……えぇ……? どうしよう……。
二人になんて言おう……。
とりあえず「騒いでごめん」?
……謝って許してくれるかなぁ……。
「──うわッ!?」
「…………っ!」
「ハルポン何してんねん! 声かける言うたやん! そない怪しげに覗くなや!」
「心臓に悪い……。驚いたよ、葉璃……」
どうでもいい事をぐるぐる悩みつつ、こっそり洗面所の扉をちょっとだけ開けて二人の様子を伺っていたら、ものすごく驚かれた。
足を組んでベッドに腰掛けてたルイさんが最初に気付いて、俺に背中を向けてた恭也がルイさんの声に驚いて振り向いてきたって感じ。
チラッとひっそり覗いてた俺の方は、人魚ズボン……もとい人魚スカートを履いた気まずさに押しつぶされそうだ。
ギョッとしててもイケてる二人に、俺はその覗きスタイルのまま「あのー」と神妙に切り出す。
「と、とてつもなく言いにくいんですが、まずはその……お騒がせしてすみません、と言っておきます。俺の確認不足で二人の準備を急かしたあげく、一人でまったりできた時間を俺が奪ってしまって、なんとお詫びをしたらいいか……どうか許してほしいと、……」
「ハルポン、何をブツブツ言うてんの?」
「葉璃〜? 根暗仲間の俺でも、ちょっと不気味だから、出ておいで」
だんだんトーンダウンして、しまいには自分にしか聞こえないくらいの小声になっていた。
それがあまりにもお化けじみてたからか、恭也にまで不気味と言われてしまって、仕方なく二人に着替えた姿を見せた。
俺はただ扉を開いただけで、動いたのは恭也とルイさんなんだけど。
「わぁ……可愛い。葉璃、今年は、人魚なんだね」
「……人魚や……」
すぐそばまで来た二人は、それぞれ真顔でジロジロと俺の人魚姿を見てくる。
やっぱりおかしいよね……そもそもなんで俺が人魚なんだ。
もっと相応しい美人顔の女性はたくさんいるでしょ、大塚芸能事務所はタレントの層も厚いんだから……。
「……で、歩けん言うてたんはこれか?」
「えっ? あ、はい……」
自分の人魚姿に絶望していると、俺の足元に屈んだルイさんがふと人魚スカートに触れて見上げてきた。
「ところがどっこいですよ、見てください。これチャックになってて開くんです。歩けないことはないんです。でも開くと、見た目完全にスカートだし、出来れば閉じてたいんですけど……閉じたら歩けないのはほんとで……」
「あぁ〜そうなんや。そらもうどっちでもええんやない。歩けんのやったら俺か恭也が運ぶし。スカート嫌や言うのは分かるし、閉じてた方が人魚っぽさアップするやん」
「ですよね……」
決算月パーティーは別名コスプレパーティーとも呼ばれてるくらいで、大勢のタレントさん達が完成度の高いコスプレを披露してる。
それもみんな、すごく自信たっぷりに。
そんな中、ウエイターさんに紛れたいと本気で思ってる俺が、なんでよりによって人魚なんだろ……。
「ねぇ葉璃、ヘアメイク、しようよ。もっと可愛くなろ」
「えぇっ……?」
「おぉ、ええやん。この写真が見本やろ? コレの通りにせな」
「えぇっ!?」
「そうだよ。葉璃、メイクさん、呼んでいい?」
「えっ、も、もう!? ていうか今年はメイクさんが来てくれるのっ?」
「そうだよ。衣装着たら、呼び出してくださいって、ほらそこに……」
コスプレの見本として置かれてる写真と一緒にメモ紙が挟んであるのを、恭也が見せてくれた。『着替えが終わりましたらご連絡ください』……だって。
今年はどうやらプロの人が来てくれるらしい。知らない事だらけだ……。
普段と長さはほとんど変わらないのに、髪色が灰色ってだけで違う人みたいに見えるルイさんも、立派な王子様にしか見えない恭也も、しっかりめにメイクをしてて気になってたんだ。
さっそくルイさんがメイクさんに連絡してくれている横で、俺は恭也に衣装直しを受ける。最中のしきりに聞こえる「可愛い」は、聞こえないフリだ。
そしてほんとに、ルイさんが連絡してすぐに『サオリ』という名刺をくれた美人なメイクさんが来た。
あんまり広いとは言えないこのシングルルームのお部屋に三人も居て、メイクさんはビックリしてたけど。
「メイク終わったら、出ておいで」
「うん……」
「あーほんま楽しみやなぁ」
「…………」
洗面所で道具を広げ始めたサオリさんが、クスクス笑っていた。
恭也はともかく、公にはまだ何も発表されてないルイさんがここに居るのはおかしいはずなんだけど、今日が特別な日だって事と、すでに芸能人オーラをまとってるからか、少しも不審がられていないのは逆にスゴイ。
二人が俺の保護者みたいだからなのか、サオリさんはメイクを施してくれてる間ずっとニコニコで、「コンセプトがハッキリ分かりますね」と言っていた。
え、コンセプト? そんなのあるの?
金髪ロングのくるくるウィッグを被ったその時、鏡に映った自分を見て少し脳裏によぎった物語ならあるけど……あれ王子様は二人も出てこなかったはずだよ。
……っていうか、俺どんどん女の子になってない?
メイクもウィッグも完全に女性的なものになっちゃって、思い浮かんだ〝コンセプト〟が現実味を帯びてきた。
「はーい、完成! 自慢の出来よ! まぁハルくんは元々土台が良いからね!」
「あ……ありがとうございます」
「ささっ、二人にお披露目しなきゃ! さっきの様子からして、なんとなく想像できちゃうけど! 二人の反応見てから撤収してもいいかしら?」
「い、いいですけど……」
こんな俺をかなり可愛い人魚にしてくれたサオリさんは、確かに腕はとても良いと思う。仕上がりはもちろん、ヘアメイクにかけた時間が約二十分足らずだったからだ。
でもそれにしては興奮気味に、お部屋に向かって「出来ましたよー!」と大はしゃぎなのは謎でしかない。
「見てくださいよー! ハルくん完璧な人魚姫でしょう!?」
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