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59♡③
サオリさんが声をかける前から二人は扉のすぐ前で待機していたらしく、変身した俺の姿を見るなり言葉を失っていた。
「うわぁ……」
「おぉ……」
恭也もルイさんも、もはや俺の女装なんて見慣れてると思う。
それなのに二人はしばらく固まっていた。
また女装? って笑われてもおかしくないんだけど、そんな感じはしないからまだ立っていられる。
居心地が悪くなるほど凝視されてる俺は、性格上「どう?」なんて聞けるわけもなく、ただ黙って恭也とルイさんを交互に見ることしか出来なかった。
傍から見たら可笑しな構図だよ。
俺たち三人の様子を見てクスクス笑ってるのは、サオリさんだけだった。
「ハルくんだと可憐な人魚姫って感じよねぇ。本当に可愛い! スチールもほぼ無修正だって聞いてたけど、あれは本当だったのねぇ」
「俺……こんな純粋そうな子にあんなあくどい魔法かけたんか……」
「俺は……こんなに可愛いお姫様が、猛烈アタックしてくれたっていうのに、……別のお姫様とだなんて……」
「…………??」
メイク道具をしまいながら興奮するサオリさんを筆頭に、ルイさんと恭也が口々に呟いた。
首を傾げている間に「お疲れ様でした!」とハツラツと出て行ったサオリさんに、心ここにあらずで挨拶を返したものの……俺はその呟きの内容が気になってしょうがない。
やっぱりサオリさんが言ってたのはほんとなのかな?
「どういう意味? サオリさんも言ってたんだけど、やっぱ俺たち三人のコスプレにはコンセプトがあるの?」
「バリバリある」
「あるよ」
「えっ……」
即答されて、『あぁやっぱりか』と納得がいった。
似ても似つかないとは思うけど、鏡越しの自分がなんとなく知ってるキャラクターに見えて仕方がなくて、でも違ったら赤っ恥もいいとこだから黙っていようとしたんだけど。
俺が恥をかく前に、二人は順番に正解発表をしてくれた。
「ちなみに恭也は……?」
「俺は、とある国の王子様。序盤で、船でどんちゃん騒ぎしてると、嵐がきて船が転覆しちゃって、海で溺れるんだ」
「やっぱりそうだ! 恭也は王子様かぁ、すっっごく似合ってる!」
「そんな……ありがとう」
「へへっ。あの物語的には俺が溺れてる恭也を助けて、一目惚れして、魔女にお願いして人間に変身して、恭也と結婚……だよね」
「俺と結婚……う、うん、そうだね。映画では、ちゃんと結婚する。でも本当のお話だと、俺は葉璃とは、結婚してないらしい」
「えっ!? そうなの!?」
「そう。俺も気になって、葉璃から連絡がくる前、調べてたんだ。俺は別のお姫様と、結婚する。魔法が解けちゃった葉璃は、泡になるんだよ……」
「そ、そうなんだ……」
「俺は葉璃と、結婚したかったんだ、本当は! でも魔女が俺をそそのかして……っ」
「えっ、うん! 大丈夫だよ、恭也! 俺はちゃんと分かってるから! 落ち着いて!」
ごめんね、って……まるで恭也が俺を裏切ったみたいな顔をして謝ってきたけど、それはさすがに感情が入り過ぎてる気がしなくもない。
慌てて恭也の腕を取って、そっと手を握る。
コスプレのコンセプトが明確だから、俳優の血が騒いじゃったのかな……。
見上げて微笑むと、必死の形相だった恭也の表情がやわらかくなってホッとした。
「お熱いところごめんやけど、俺こそが海の魔女デス」
「えっ、ルイさんも王子様じゃなかったんですか? 海の魔女……? 映画だと足がいっぱい生えてる大きな女の人ですよね」
「そう、それやな。擬人化してなおかつ性転換した姿が、俺」
「そう言われるとちょっとイメージ湧かないですけど……似合い過ぎてますよ、ルイさん」
「悪役やけどな?」
「そう見えないですもん! みんなが困るような小さい魔法はかけちゃいそうですけどね」
「ははっ、何やそれ」
「そんなに大きな悪い事はしないけど、地味に困るイタズラはいっぱいしそうです。やめてください、イタズラは」
「なっ、俺がすでに誰かに迷惑かけとるような言い方やん! 俺はそんなんせえへんよ。迷惑かけるんもかけられんのも好きやない」
「わぁ、だったら日頃の俺にめちゃくちゃ鬱憤溜まってるでしょっ? すみません、俺は迷惑しかかけてないんで……」
「ハルポンは例外。ハルポンは何してもええ。どんなアホな事しでかそうが、俺は迷惑とは思わん」
「えぇ……っ?」
またそんな甘いこと言ってるよ。
当初のルイ節が聞けなくなって寂しく感じるくらい、最近のルイさんは俺に甘い気がする。
そんなことより、どこからどう見てもチャラめの王子様にしか見えないのに、魔女……魔法使い? だったなんて驚きだ。
社長さん、俺を除いてほんとにコスプレを割り当てるのがうまいよ。それぞれもれなく似合ってるんだもん。
「少し早いけど、下に降りようか。もう結構、集まってそうだよ」
「よっしゃ行くか。マジで楽しみ! メシもたらふく食うつもりで昼飯抜いてきてん」
「そこまで、気合い入ってたんですね」
「そらそうやん! メシはさておき、恭也とハルポンのコスプレ見たかったしな! 日程決まってからずーっとウズウズしてたんよ」
「ルイさんは、自分がコスプレするのは、躊躇無いんですか?」
「あんまし。逆に楽しみやったよ。てか俺『楽しみ』しか言うてへんな。遠足前の小学生やん」
「ふふっ……」
そっか、ルイさんは今回初めて参加するんだよね。
少し前にこういうパーティーがあるって知って興味津々だったし、そんなに楽しみでワクワクしてたなら、いつにも増してご機嫌なのも頷ける。
俺は……もう降りなきゃって言われて絶望しかけてるくらいなのに。
「んで、ハルポンはどないする?」
「へっ?」
「俺か、ルイさん、どっちがいい?」
「どっちがいいって何が?」
「お姫様抱っこ」
「あっ……!」
そうだった。
人魚姫になりきるなら、チャックを閉めて運んでもらわなきゃなんだ。
俺から言い出したことなのに、二人にそう言われると返答に困る。
「ど、どっちがって……迷惑かけちゃう側の俺は選べないよ。ていうか俺がスカートで行けば……」
「それはダメ」
「そんなんあかん」
「えぇ!?」
「やっぱりここは、王子様役の俺が、適任かな」
「いやいや、役どころで言うと俺の方が姫と接する時間長いことない?」
「俺が、抱っこします」
「いや俺がする」
「いえ、俺が」
「いいや、俺が」
「ちょちょちょちょっ! 待ってください、雲行きが怪しいです! 公平にジャンケンで決めようよ! ねっ? 運んでもらう俺は口出し出来ないからさ!」
俺の運搬役を取り合う意味が分からない。
俺、重いよ? ちょっと歩いただけで腰とか腕が痛くなるかもしれないんだよ?
協力的なのはありがたいけど、そんな事で二人が言い争うなんて当事者としては気が引ける。
急いで待ったをかけた俺が提案したジャンケンの末、一回勝負に勝ったのは恭也だった。
「おいで、葉璃」
「ごめんね、恭也……。よろしくお願いします」
「そんなに、かしこまらないで。俺は、役得でしかない」
ひょいっと俺を横抱きにした恭也の首にしがみついて、申し訳なさ全開で頭を下げておく。
考えてみると、こうして恭也に運搬されるのは初めてだ。……って、何度もこんな経験があったらヘンか。
どこか嬉しそうな恭也とは反対に、ジャンケンで負けたルイさんは唇を歪ませながらお部屋の戸締まりを買って出てくれた。
そしてルームキーを片手に、恭也に迫る。
「なぁなぁ恭也〜。やっぱ抱っこは交代制にしようや」
「……仕方ないですね……。俺だけの葉璃じゃ、ないですからね」
「ほんまにそうやで。ハルポンはみんなのハルポンやから」
「あ、違う。ルイさん、葉璃は〝あの方〟の、葉璃です」
「そうやったわ。でも〝あの方〟がおらん時は俺達のハルポンでええやん? それもあかんの?」
「さぁ……俺の一存では何とも」
そうか、と笑うルイさんと、何だか強かな笑みを浮かべる恭也。
二人が仲良しなのはめちゃくちゃ嬉しいし、俺にはよく分かんない会話で盛り上がってるのを見てるのも、すごく好き。
ただほんとに俺抜きで仲良くなり過ぎじゃない?
蚊帳の外なのモヤモヤっとするんだってば。
まぁ今はこれからの事で頭がいっぱいで、そのモヤモヤはすぐに別のものに変わってしまうんだけど。
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