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59♣⑦
─ルイ─
いつでも冷静沈着。知り合い居らんとこでは特に喜怒哀楽が分かりにくい。感情の波をほとんど表に出さん。
そんな恭也をも虜にする、ハルポンの人魚姫コスプレ。
言うてる俺も、ちょっとドキドキしてもうた。
何ならヘアメイクする前から、「よう似合うてんなー!」と親戚のおっちゃんみたいな事を口走りそうになった。
認めよう。
恭也がハルポンを姫抱きして、めちゃめちゃ至近距離で楽しそうにコソコソ話しとるのを見た時、ハルポンが言うところのモヤモヤを自覚した。
恭也がメロメロなっとるんは分かる。
せやけど危なかったやん。
ペア衣装やから余計に気持ちが入ってんのか、ハルポンを見る目が少々危ななってきてんのに気付いた俺は急いで姫を拉致った。
ヒョイッと姫抱きして何気なく恭也を見ると、三白眼の無表情王子が爆誕した。
いやいや、「可愛い」と意味も無く口を滑らせるほどやったくせに、あれ以上抱かせとったらセナさんにすら渡さん可能性あったやん。
嫉妬メラメラな目で見んといてくれるか。
「すみません……ご迷惑おかけします……」
「こんなん迷惑のうちに入るかいな……って、ハルポンかっる! フードファイター並みに食うてんのになんでこないに軽いんや」
「俺を大食い扱いしないでくださいよ……」
「それは無理な話やで」
今日も順調に控えめなハルポンは、華奢な見た目通りかなり軽い。あんだけ食うてんのはいったいどこへ行ってんのやってくらい。
すまなそうに見てくんのは通常運転やからええけど、ほんまに俺は姫抱きしたかったしそないに申し訳無いオーラを出さんといてほしい。
なんで順番待ちまでしてハルポンを抱っこしたかったんかは、自分でもよう分からん。
『ハルポンを合法的に抱っこ出来るやと!?』とテンション爆上がりしたんは事実で、何としてでも実行に移したかった俺は、今ここに鏡があったら顔を背けてる。
なんとなく分かるんや。めちゃめちゃだらしのない顔しとるってな。
「ルイさん、レイチェルさんまだ居ます?」
「……そやな、おるで。熱心に誰かを探してはります」
「そうなんですね……」
コソッと問うてきたハルポンは口には出さんが、表情的に「やだなぁ」と続きそうやった。
まぁそうよな。嫌やと思う。
レイレイの姿すら見たないやろうに、万が一にも話しかけられた日には全身の毛を逆立てた猫みたいになるやろしな、ハルポン。
あっちには超ロングヘアーのプリンセスがキョロキョロしとる。こっちの姫はそのプリンセスに怯えて縮こまっとる。
俺は俺で、デッカい疑問が渦巻いとる。
なんでロングヘアープリンセスは入り口ばっか見とんねん。探してんのがうちの〝ボス〟やとしたら、こっち向いてキョロキョロせなやろ。
まるでボスが遅れて到着するんを知っとるみたいやん。
『早く私のプリンス来ないかしら、ドキドキ♡』やないねん。
「ルイ、お前のコスプレは何なんだ? そんな黒ずくめの男、人魚姫に出てきたか?」
入り口から動こうとせんレイレイを注視しとると、背後からぬっと視界を遮るようにして来たアキラさんからそう問われた。
男前がタキシードなんぞ着とると、アキラさんのキャラも相まって恭しく一礼せなあかんような気持ちになるな。
「俺は魔女役なんすよ。性転換してまいました」
「あぁ、そうなんだ! なるほどね、あの魔女の擬人化かぁ。ルイっぽい!」
「はい〜? ケイタさん、それどういう意味っすか」
「言葉通りだよ! ルイはそんな衣装着なくても魔法使えそうじゃん?」
「はい〜〜? そんなわけ……」
「ふふふふっ……」
カニの擬人化コスプレなんに、派手色の燕尾服がよう似合うとるケイタさんから妙なご指摘を受けた。
ナニソレ? と愛想笑いしてる俺の胸元でクスクス笑いだした人魚姫は、どうせまたワケの分からん妄想が膨らんではるんやろう。
さっきもアキラさんとの会話中に謎の爆笑をかましとったし、笑顔が可愛えから言うて何でも許されるわけちゃうで。
「ハルポン、また笑いのツボ発動か」
「い、いえ……ふふっ。ルイさんっぽいって思ったの俺だけじゃなかったから……っ」
「どういう事やねん。さすがにそんなん出来ひんし」
「そんなんって、魔法ですか?」
「そうや。ハルポンだいぶ俺の言いたいこと分かるようなってきたな。方言もかなり聞き取れてるし」
「確かに……! 最初の頃は外国語に聞こえてたんですけど、最近は結構分かります」
「外国語て……。オーバーやろ、それは」
どういう事やねん、と苦笑いしつつも、ハルポンから笑われてもまったく嫌な気せえへん。
方言が聞き取れんと難癖つけてくるレイレイと、何が違うんやろ。
言うてる事はほとんど同じなんやけどな。
「そんじゃ俺達も会場に入るか。見つかったら厄介だ」
「あははっ、アキラあからさま過ぎー! ていうか珍しいよねぇ」
「何が?」
「アキラが人を避けるなんて」
「まともに会話したくねぇ相手だからな。例の事がチラついて冷静でいられる自信が無い」
「そうだねぇ。それは俺も同感。出来れば関わりたくないよね」
アキラさんほんまに珍しい。言うてるケイタさんの笑顔が引きつってるとこも、なかなか見られへん。
荒波をくぐり抜けてきたこの二人さえも敬遠させるレイレイは、やっぱ色んな意味でツワモノやな。
コミュ力には自信のあった俺も、出来れば話しとうないし究極言うと顔も合わせたない。
「アキラさんとケイタさんもある程度知っとるんすよね? ほらあの……諸々」
豪華な先輩二人が歩き出した後ろをピッタリついて、俺は素朴な疑問を投げかけた。ちなみに俺の後ろには無表情王子が護衛のごとく張り付いとる。
「そりゃあな。あのセナがよく愚痴ってくるからな」
「そうそう〜! セナもあんまり他人をどうこう言うタイプじゃないんだよ? どちらかというと俺が構わず何でもワァーッて言っちゃうから、二人が止め役に回ってくれたりして。だけど今回ばかりはセナが止まんないんだよねぇ」
「わりと序盤からな」
「ホントにね」
そうなんや。こうなったらトリプル珍しいやん。
CROWNのお三方がそんな風なんに、俺らが大人の対応出来るわけないよな。
なんや納得したわ。
「……分かるわぁ。俺マジで他人に対して「何やコイツ」思たん初めてっすもん。気悪いこと思たら自分に返ってくるし、あんま嫌いになりたないんやけど、そう言ってられん何かがあるんよなぁ」
「ルイさんは、犬猿の仲みたいに、なってますもんね」
「そやねん。なんや話しとったらバカにされとるような気になってくんのよ。あれしんどい」
「俺も、質問攻めされるの、苦手なんですよね……。グイグイくるから、なんだか、こわくて……」
俺は初っ端の印象が最悪やったんか、それとも見た目がお気に召さんのか知らんが、やたらと毛嫌いされとる。
恭也はというと世間でのハルポンとの関係を鵜呑みにしたいのアリアリで、何とか持ち上げたろういう気持ちが見えて胡散臭い。
態度があからさまやから、俺も好意的に見られるはずないし。
顔を合わせればハルポンについてをとやかく質問される恭也も、そもそもが強引な人間が好かん性分やから対応に困るんやろ。
ハルポンが危険に晒されとって、しかも遠回しに脅されとる状況を良しとせんのは俺と恭也だけやない。
さっさと会場入り口まで来たアキラさんの歩くスピードを思えば、はよ逃げたいでたまらんやったらしい。
「──つまりはみんな同じ気持ちっつー事だな。もし接する機会があっても、メンタル維持のためにお互い協力し合おう」
「だね、オッケー!」
「そうですね」
「そうっすね」
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