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59♣⑧

 俺に姫抱きされたハルポン含め、俺たち四人が気持ちを一つにした、まさに次の瞬間。 「あっ、みなさーん!」  ホテルのロビーに甲高い声が轟いたその時、全員がギョロギョロっと視線を互いに向けた。  いやいや、こんな事あるか? 一致団結したばっかやぞ。  入り口付近で固まった集団は、確かに目立っとったかもしれん。  せやけど周りには、テレビでよう見る芸能人がコスプレしてウロチョロしてんのよ。  お目当ての人物が現れんから言うてよそ見すんなら、そっちに注目してくれへんかな。  しかもやで。  誰一人「よぉ! 久しぶりやん!」て弾ける笑顔で応えてへんのに、なんでこっちに向かってきてんのよ。  俺らが『見つかってもうた』な心境でドギマギしとるんやから、プリンセスの声にビクゥッ!と体が硬直したハルポンなんか失神寸前ちゃうの。 「こんばんは、皆さんお揃いで! お会いできて嬉しいですわ! ひとりぼっちで心細かったんです。ご一緒してもよろしいかしら?」  はぁ〜? よろしくない、よろしくない!  ここにおる誰もがNOの顔してるやん!  あかんて。  物怖じせんとここまで来て何を言い出すかと思えば、またグイグイ。  恭也とアキラさんが、こっそりレイレイから距離を取った。  俺はハルポンを姫抱き中やけど、何があっても守ったる精神で仁王立ち。ただし口は開かん。  たぶん、たぶんやで、俺が出しゃばると喧嘩になる気すんねん。  こういう時に頼りになるんは、恋愛ドラマに引っ張りだこで甘い笑顔が得意な……。 「こんばんは、レイチェルさん。ドレス似合ってるね」  さっすがケイタさん!  思ってもない事を言いながら、喋りたない本心をおくびにも出さんとキラキラスマイルで振り返った姿に、俺はこの時こんな場所でケイタさんの役者魂を見た。 「うふっ、ありがとうございます。そう言ってくださって嬉しいですわ。あちらでのプロムでこういう素敵なドレスを着て参加しましたの。あの時はおしとやかなピンク色だったかしら。懐かしい思い出がよみがえってきました。うふっ」 「あ、あぁ、そうなんだ」 「皆さんのお衣装も素敵ですこと。目を奪われましたわ。皆さん背が高くて顔立ちも素晴らしいから、どこにいても目を引きますものね」 「そうかな、うん。ありがとう」  誰も聞いてへん弾丸トークとおべっかに、笑顔が貼り付いたままのケイタさんはタジタジになった。  窓口になってくれたケイタさんには、内心でスタンディングオベーションを送っておこう。  いつも頼りになる兄貴がしっかり引き気味でいらっしゃるもんで、話に入ろうとするどころか知らんぷりしとるなんて絵面はそうそうお目にかかれんて。  メンタル維持のために協力し合おう……やなんて、まさか兄貴の口から出るとは思えへんかったもんな。  レイレイと接するんはそれだけHP削られる、いう事や。  現に窓口になったケイタさんは言う事無くなってもうて遠い目をしだしたし、そんならロングヘアープリンセスは置いとってはよ会場入ろうや。  同じく気配を消しとるハルポンの精神状態も心配やからな。 「ところで……」  一歩踏み出そうとした俺の前を、お抱えのスタッフを従えたプリンセスがずいっと割り込んで道を塞いだ。  うわ、と声が出そうになったんを堪えた俺は、エライと思う。  咄嗟にレイレイからハルポンを遠ざけるように抱き直し、「なんや」とついつい睨んでもうたがそこはご愛嬌や。 「あなたが抱いていらっしゃるのは、ハルさん……ですか?」 「そうやけど」 「こ、こんばんは、レイチェルさ……」 「なぜハルさんは女性の格好を? ハルさんは男性ではないのですか?」 「…………」 「コスプレパーティーなんやからなんでもアリやろ。てか見立ては全部社長なんやで。そこに疑問持つならおたくの〝おじさま〟に聞いてくれんか」 「……あなたはいつも冷たい態度ですね。私のことが嫌いなのですか?」 「そんなこと言うてへんやん。態度で言うたらお互い様ちゃうの」 「私がいつあなたのような態度を……」 「ま、待ってください! ケンカはダメです! ルイさん……っ」  ほらな。俺が応じるといっつもこうなんねん。  ハルポンが止めてもまだ睨み合うてしまうが、しゃあないやん。  不躾にジロジロとハルポンを見よって、マジで気分悪い。  なんで男なのに人魚姫なん?って、そら誰でもそう思うやろけど似合うてるからええやん。  どんな美女も太刀打ち出来ひんくらいべっぴんに仕上がってんのに、どこの誰が文句つけんのよ。  しかも勇気振り絞ったハルポンの挨拶なんか聞いてへんかったやろ。  単純にムカつくねん。  ハルポンを見るキッツい目と、さも自分は何も悪ないいうその態度が。  ──って、これがあかんのよな。  見上げてくるハルポンが、「ルイさんダメです」と小声でループしてきよる。  これ以上はあかんと、安心させたろう思て少し輪から離れた。 「すまんかった」 「ほんとですよ。相手は女性なんですから」 「分かっとる。分かってはおるんやけど……喋ってたらついカァーッと頭に血が上んのよ。そもそもの相性が悪いねん」 「じゃあもう喋んないようにしてください。ルイさんの言い方、たしかにキツ過ぎます。最初俺にもあんな感じだったんで、なんか……あの頃のこと思い出すからイヤです」 「ハルポンが嫌や言うならもう喋らんとく。てか……あの頃やっぱ俺のこと嫌いやったんか」 「嫌いっていうか……図星なこといっぱい言われて悔しかったんです。言い方キツくて、目もこわくて、逆に俺が嫌われてるんだろうなって思ってたから……」 「あぁ……っ、もう、あかん! ごめんやん! そないに可哀想な顔せんといてくれ! この通りや!」  見事なハの字眉で瞳をうるうるさせながら見られると、「そんなつもりやなかったんや!」と詫びるしか出来んくなる。  出会ったばっかの頃、俺はとんでもなくハルポンに冷たかった。  甘えん坊やだの意識が足りんだの、ハルポンの事を何も知らんと偉そうに言いまくった。  その時のハルポンがどんな顔で、気持ちで、俺の言動を受け止めてたか……。  後からほんまに後悔したんやから。  それを思い出すとか言われると、もう何も言えん。  ハルポンと居る時は、俺はレイレイとは話さんとこう。  キッカケ一つで失いとうない人から縁切りされるかもしれんのやったら、俺が絶対的に守りたいんはハルポンとの仲しかない。 「ほんまにごめんな? とにかく気に食わんかってん……。ハルポン傷付けたら許さん、そう思てたら口が勝手にやな……」 「それは……ありがとうございます。ルイさんが俺のために言い返してくれたのは分かってるんです。だってなんか……男なのに女装して恥ずかしくないの、とか思ってそうでした」 「俺も感じた。まぁほんまにそう思てたんかは知らんけど。言い草はよくあるやつでも、あっちはハルポンに敵対心持っとるから余計にそう聞こえてまうんよな」 「……自分が一番、分かってるのに……。俺はレイチェルさんみたいに綺麗でも可愛くもないし、衣装が似合ってるなんて微塵も思わないし。クスクス笑われるの覚悟でこれから会場に入るのは俺なのに……」  最強のネガティブ思考を持つハルポンに、「似合うてるんやから自信持て」とはよう言わん。  レイレイのプリンセス姿を見て劣等感を駆り立てられたんか、卑屈発言に拍車が掛かっとるけどそこも気にせん。  ハルポンは、他人がどんなに自己肯定感を上げたろうとしても無駄。おそらくセナさんでも不可能なんやないかな。  いよいよ指先のイジイジが始まったハルポンに、俺が言えるのはこれだけや。 「ハルポンは誰よりも可愛えよ」

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