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60♡⑨

 ただ話をしただけであんなに情緒不安定になるなんて、どんな内容だったのかすごく気になるよ。  ゲッソリで戻って来た二人の雰囲気からして、明らかに良いことではないよね。  しかも一人一人を別の場所に呼び出すなんて……一世一代の告白をする学生じゃあるまいし。 「さっき、俺が言いかけた事……なんだけど。葉璃は、聞きたい?」 「……うん。ケイタさんに何か言いかけてやめたよね。何だったの?」 「それがね、……うーん……。聞いて、後悔しない? 葉璃のことだから、モヤモヤするより、話しちゃった方がいいのは、分かってるんだけど……」 「その通り! すでにモヤモヤしてるから話してほしい。そうでないとケイタさんと恭也を慰める事も出来ないよ」  言い終わってすぐに、〝慰める〟は生意気だったかもと項垂れる。  だけど恭也は、俺の生意気発言なんか気にしちゃいなかった。  立ち止まってちょっとだけ考えた後、会場の隅っこに俺を連れて行って静かに床に降ろす。  すると約一時間ぶりに自分の足で立ったからか、少しフラついた。咄嗟に恭也が支えてくれなかったから、危うく前のめりになって転んでいた。 「……っ、ごめん恭也」 「大丈夫。立つのも、おぼつかないなんて、本当の人魚姫みたい」 「揶揄わないでよ」 「ふふっ……」  上品にクスクス笑ってる恭也こそ、まさしく王子様じゃん。  俺と違って、衣装に着られてる感が無い。すごく似合ってる。  俺は、見てくれが上等なだけでそんなに良いもんじゃない。すごくしっかりめのメイクをしてもらってるけど、よく見たら俺だって分かるからガッカリされると思う。  なーんだ、〝ハル〟か……って。それくらいのレベルだ。 「あの人、葉璃と自分は、何が違うのか、知りたがってたんだよ」 「…………?」  パーティー会場の隅っこで壁際の俺を隠すように立つ恭也は、屈んで俺にそう耳打ちすると、ウーロン茶を一口飲んで小さく息を吐いた。  〝あの人〟って……レイチェルさんのこと、だよね?  レイチェルさんが、何と何の違いを知りたがってたって?  何それ? どういう事?  耳打ちしてきた内容の意味がすぐには分からなくて、棒立ちのまま俺は恭也を見上げて続きを待った。 「……どうして自分は、葉璃みたいな扱いを、してもらえないのか、分からないんだって。なぜみんな、葉璃には優しくしてるのに、自分は冷たくされるのって」 「つ、冷たく……っ? ていうか待って、俺の話題だったの? ケイタさんと恭也、どっちも同じことを聞かれたの?」 「そうだよ。それに、アキラさんも、じゃないかな」 「えぇっ? なんでそんなこと……」  みんながレイチェルさんに冷たくしてたって? そんなことないでしょ?  俺への対応も、まぁ……交代でお姫様抱っこなんて過保護過ぎるのかもしれないけど、わりといつも通りっていうか、それも今聖南が居ないから〝みんな〟がそうしてくれるのであって、特別な事ではないよ。  もしかしてそれが、レイチェルさんにとっては特別な事に見えたのかな? 「…………」 「…………」  あ、……そっか。  そうだ。そういうことか……!  気付いちゃったよ、俺。  きっとレイチェルさんも、お姫様抱っこしてほしかったんだ……!  だとしたら辻褄が合うよね。  俺ばっかり優しくされて……って、そんな風に思っちゃうの分かるよ。  髪の毛が重たくてしょうがないのに、スタッフさんに手伝ってもらいながらレイチェルさんはちゃんと自分の足で歩いてた。  だから、自分もお姫様なのにどうして抱っこしてもらえないのって、不満が溜まっちゃったんだ。  挨拶代わりに俺に性別のことを嫌味のように言ってきたのも、お姫様抱っこが羨ましかったからちょっと意地悪言っちゃっただけなのかもしれない。 「それで、俺が言いかけた事、なんだけど」 「あ、……うん」 「あんなに葉璃に、対抗意識を燃やしてて、何も知らないは、通らないよなぁって」 「…………」  それは否定出来ない。  お姫様抱っこをしてほしかった云々はさておき、今までの言動を考えるとレイチェルさんは絶対に俺と聖南のことを知っている。  疎い俺でもそう思うんだから、遭遇する度に何かと俺についてを聞かれるらしい恭也が勘付くのも当然だよ。 「あの人は、全部知ってるよね、確実に。自分でどんどん、ボロを出してるんだもん」 「……そんなにメラメラしてたの?」 「俺の目には、メラメラギラギラ、に見えたかな」 「そんなにっ!?」 「うん。葉璃が、俺たちから、大切に扱われてるのも、気に食わない感じだった。というより、葉璃のことが、羨ましいって、そんな風にも感じた」 「…………」  レイチェルさん、そんなにお姫様抱っこが羨ましかったんだ……。  それなら素直にそう言えばよかったのに。  対抗意識を燃やすような相手じゃないじゃん……俺なんて。俺はとてもそんなこと言えないけど、どう考えてもレイチェルさんは何でも言えちゃうタイプでしょ。  ……あぁ、でも、そっか。  全部知ってるからこそ、対抗意識を燃やしちゃうのか。  こんなちんちくりんが、聖南の恋人だなんて許せないんだもんね。  根底にそれがあるから、そもそもレイチェルさんは俺のことが気に食わないんだった。 「なぁなぁ、お二人さん。隠れてイチャついとるつもりなんかもしらんが、めちゃめちゃ目立っとりますよ〜」 「…………っ!」 「…………っ!」  ビックリしたー……!  いきなりよく知った声がして顔を上げると、灰色のウィッグで一瞬誰だか分からなかったルイさんが、ニタァと笑って俺たちを見ていた。 「ガチで何してんの。お邪魔やった?」 「い、いえ、そんなことないですよ! 居るとは思わなくて……!」 「なんでやねん。いっつも俺を除け者にするやん」 「違いますよ! ルイさんどこに行ったのかなって気にはしてましたよ? でも呼び出されてたんですよね?」 「誰に?」 「えっ? あの……〝あの人〟に……」  恭也がそうしてたのを見習って、俺も濁してみた。  さっきレイチェルさんが居たところ付近に目線をやって、それからルイさんを見上げると、やっぱりこれだけで誰のことだか気付いてくれた。 「いや……呼び出されてへんよ。俺は今の今まで社長と話しててん。ほら、ステージのすぐ下に社長おるやろ。あそこで」 「あー……俺の身長じゃ見えないですけど、そうなんで……うわわっ」  言い終わらないうちに、ふわっと体が宙に浮いた。  俺の背後に回ったルイさんが、脇の下に手を入れて持ち上げてくれたからなんだけど、いきなり過ぎて驚いた。 「見えたか?」 「は、はい、もうバッチリ」  普段よりぐーんと身長が伸びたおかげで、スーツを着た社長さんがステージの近くでコスプレした誰かと談笑してるのがチラッと見えた。  床に降ろされるとまた少しフラついてしまって、恭也に支えられる。たった一時間で俺の筋力どこいったの。 「てかな、レイレイは俺と一対一では喋りきらんと思うよ。いや、俺とは話したない言うた方が正しいやろな」 「ルイさんはちょっと、彼女に敵意を、むき出し過ぎかと……」  俺を支えてくれながら、恭也が苦笑いしてルイさんを窘めた。  社長さんと話をしてたんだとしたら、なんでルイさんはレイチェルさんからの呼び出しが無かったんだろう……?  恭也が言うように、ルイさんとレイチェルさんの会話は誰が聞いてもトゲトゲで、ケンカになりそうになる、から? 「そうなんよな。分かっとるんやけど我慢できひんのよ。イラァッとしてまうねん、言動すべてに」  ルイさんはこんな事を本気で、いかにも嫌そうに眉間にシワを寄せて言い放った。  前々から知ってはいたけど、さっきもかなり険悪なムードだったもんな……。まさに一触即発って感じで。 「すべてにって……ルイさんはあの人に何かされたわけじゃないですよね? なんでそんなにイライラしちゃうんですか」 「そんなん決まってるやん。俺の大事なハルポンがアイツに嫌がらせを受けてるから。俺、卑怯者は断固として許しませんので、これからも態度は変わらへんし裏取り協力バンバンしてコテンパンにやっつけるつもりでおる。ボスにもそう言うといて」 「えぇ……っ」  いつもの調子で冗談交じりに答えてくれるのかと思いきや、ルイさんは思ってた以上に、その本気度がビシビシ伝わってくるほど怒り心頭の目をしていた。  でもこんなルイさんの剣幕にも負けじと言い返してたレイチェルさんこそ、噂通り相当な強心臓の持ち主。 「あ、……」  スタッフさんを従えたプリンセスがこちらに向かってくるのが見えた瞬間、俺はその強心臓を少しは分けてほしいなんて無茶を思った。

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