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61♡決算月パーティー! 〜痛棒編〜

 ルイさんから笑われて気付いても、もう遅い。  恭也の待つテーブルに着いた頃には、ルイさんの何とかクーラーはグラスの三分の一も減っていた。  申し訳なくなった俺は静かに椅子に降ろされた後、上機嫌で隣に着席したルイさんにおもむろに自分のグラスを差し出してみた。 「すみません、ちびちび飲んでたらかなり減っちゃいました……。ルイさん、代わりに俺のココア飲んでいいですよ」 「あー……、気遣い嬉しいんやけど要らんなぁ」 「……ですよね」 「たったこれだけの事でそない凹まんでええって」 「……すみません……美味しかったんです……」 「ぶはっ! そら良かったわ」  ほんの少し大人ぶった飲み物が美味しくて夢中で飲んだなんて、揶揄われてもしょうがない事を自分でやっちゃって恥ずかしいったらない。  まったく気にしてなさそうなルイさんが、すごくいい笑顔でふとグラスに口をつける。  不思議だ。  俺だとまるでジュースなのに、ルイさんが飲んでるとお洒落なお酒に見える。  あの薄切りのライムが良い味出してるんだよね……ほんのり爽やかっていうか。 「ハル」 「……っ、はいっ?」  俺は、グラスを傾けてるルイさんをジッと見ていて、真後ろにアキラさんが居たのに気付かなかった。  そっと耳打ちされて振り返ると、本物の執事さんみたいなアキラさんがスッと俺のそばでしゃがんだ。 「あと一時間の辛抱だぞ」 「……はい?」 「一時間半はかかるっつってたけど、アイツなら一時間で来る」 「……はぁ、……」  えーっと……。何の話?  言ってる意味がすぐには分からなくて、アキラさんを見つめてしばらく考えた俺は唐突にハッとする。 「えっ、えっ? あっ! もしかして……!」 「そう。何の事だか分かった?」 「はい……! 一時間……ですね。ありがとうございます」  〝アイツ〟が誰だか分かると、立ち上がったアキラさんから頭をポンポンされた。「へへっ」と気味悪く笑って見上げると、レア度MAXなアキラさんの笑顔が返ってきて眩しかった。  なかなか聖南が到着しない事を俺が不安がってるかもしれないと、こうして伝えてくれるところが気遣い屋なアキラさんっぽい。  そっか、あと一時間、かぁ……。  きっと大急ぎで向かってるんだろうから、あんまり寂しがっちゃいけないって分かってるんだけど……いざ〝あと一時間〟って聞くと長く感じる。  運転には気を付けてほしい。でも出来るだけ早く来てほしい。  ……わがままだな、俺……。 「葉璃、何か、食べる? 持ってこようか?」  特に飲む気の無かったココアのグラスを手に持って固まっていると、右隣の恭也が気を使ってくれた。 「うーん。……ううん。あんまり食べられる気がしないからいいや」 「そう、なの? 大丈夫?」  心配そうな目で見つめてくる恭也に、「大丈夫だよ」と言いながらうまく出来てるか分からない笑顔を向ける。  遠慮じゃなくて、食べられる気がしないのはほんとだ。  たとえ聖南がすでにここに居たとしても、いつもみたいに何か食べたい、お腹空いたーって気にならないと思う。  ここは俺にとってすごく異質な場所と環境で、視界からの情報がとにかく多い。  それにコミュ力ゼロの俺には、大勢の他人が周りに居る状況っていうのが未だに慣れないというのもある。 「ハル君が食欲無いだなんてどうしたの。でもまぁ、こういう場だと普段通りってわけにいかないかぁ」 「そうかもです。毎年このパーティーではほとんど食べないんで……」 「でも食べとかないと保たないんじゃない? いつもパーティー終わりには……ほら、記録更新してるらしいし?」 「なっ……」  ケイタさんからフフッと微笑まれて、その意味だけはなぜか一瞬で理解した俺の顔がたちまち熱くなる。  俺も聖南もコスプレだのイメプレだのが好きなもんだから、はじめは恥ずかしくてモジモジしててもいつの間にか燃えちゃってるんだよね……って、なんでケイタさんが記録更新したとか知ってるの?  聖南、まだケイタさんに夜のあれこれを話すのやめてないの?  まったく……俺たちの夜事情まで筒抜けなのはどうかと思うよ。  聖南がこの場に居たら、さらに余計な事を言って俺を灰色にするんだろうな……。  でも、俯いてその場をやり過ごすしかないって時にいつも助け舟を出してくれる心強い味方が、俺には居る。 「こらケイタ。ハルにそういう事を言うんじゃねぇ。そっちの主導権握ってんのはアイツなんだから」 「そうだったね! てかアキラ、そんなに食べ物持ってきてどうするのさ」 「アイツがこうしろってさ。腹が減る頃だろうから、拒否してもとりあえず目の前に食いもん置いてやってくれって」 「へぇ〜。相変わらずハル君には甲斐甲斐しいねぇ」  そう言われてみると、さっきまで無かった小皿料理がいくつかテーブルに並んでいる。アキラさんがわざわざ持ってきてくれたらしい。  どれも小さいから二口くらいでいけちゃいそうな可愛いサイズで、要らないとは言ったものの確かに目の前に置かれると不思議と手を伸ばしたくなる。  聖南は俺の性質をよく分かってるから、アキラさんにそう伝言したんだな。  着席したら自分から動く事はまず無いし、知らない人ばかりの空間じゃ緊張状態が続いて空腹を感じる間もない、だけど何か食べさせておかないと不機嫌になるから……とか何とか。 「ちわーっす! 今年もみんなお揃いで!」 「あっ……!」  そう、これだから何かを食べようって気にならないんだ。  次から次に気が散る事が起きる。  よく通る大きな声に顔を上げると、急ぎ足でこちらに向かって来た人物に声を出さずにはいられなかった。  ケイタさんと同じように三つのグラスをくっつけて両手で運んできたのは、このパーティーでしか会う機会の無い、ちょっとスキャンダル多めな俳優の荻蔵斗真さんだ。  ちなみに荻蔵さんの今日のコスプレは独特で、頭に被ってる御札付きの帽子が尖ったベレー帽みたいで可愛い。  後々知ったんだけど、映画にもなった妖怪の一種〝キョ○シー〟がモチーフになってて、荻蔵さんは毎年そういう系のコスプレをあてがわれてる事にこっそり気付いた。 「アキラさんはさっきぶりっす!」 「荻蔵……お前今年もまたケイタと飲んだくれるつもりらしいな。なんで飲むヤツは初っ端三杯がデフォなんだよ」 「一杯があっという間になくなっちゃうんだもん。いちいち取りに行く手間が省けていいんだよ」 「そうなんすよ! てか俺もご一緒していいっすか? 俺ハルたんの隣がいいなー」  俺も一応、「こんばんは」って言ったんだけど……荻蔵さんの声にかき消されて聞こえてなさそう。  荻蔵さんはチラッと俺に目配せした後、両サイドに座る恭也とルイさんを順番に見た。  視線を感じたらしい恭也はボリューム小さめに挨拶して、荻蔵さんもそれに笑顔で返してはいたんだけど、どうにもルイさんの事が気になるみたいでとうとうすぐそばまで寄って来た。  礼儀正しいルイさんは、荻蔵さんの不躾な視線なんか何のそので立ち上がり、スッと右手を差し出す。 「はじめまして。ルイ言います」 「おう! ルイな、よろしく! 相変わらずハルたんの周りにはイケメンしか居ないなー! って事で、さっそくで悪いんだけど席譲ってくんない?」 「それは無理な相談ですわ。俺もハルポンの隣がええんで」 「なぬっ!? 関西の男か!?」 「いや生まれも育ちもこっちなんすけど、育ててくれたばあちゃんの方言が移ってもうて」 「そうなのか! てか席譲れ? 俺先輩だかんな?」  荻蔵さん、その言い方はパワハラになるんじゃ……と恐る恐る右隣を伺うと、ルイさんは頑として席を譲る気が無さそうで、しかもやわらかな笑みまで浮かべている。 「先輩……。荻蔵さん芸歴何年すか?」 「俺? 俺はなんと、今年で十年目なんだな!」  フフンっと得意気な顔でルイさんを見下ろす荻蔵さんこそ、相変わらずだ。  スキャンダルばっかでも、俳優として十年も続けられるのはそれだけの実力があるからで、荻蔵さん本人にも今までの経験にしっかりと自信を持ってるんだろう。  先輩だぞーってふんぞり返るのはどうかと思うけど、こんなに得意顔なのは仕方ないのかも。  ところがルイさんは、何にも、少しも、狼狽えた様子が無い。  それどころか、アキラさんとケイタさん、恭也と俺が見守るなか、まったく表情を変えずに堂々とこう言った。

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