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61♣⑥
大遅刻をかましたセナさんは、アキラさんとケイタさんに手で『ごめん』のポーズを向けて、空いたハルポンの隣にドカッと腰掛けた。
「俺もコレで魔法使うんだけどな。コレ振り回してルイをやっつけるわけじゃねぇよ」
「俺とセナさんじゃ魔法の格が違うっすもん。俺はけちょんけちょんにやられそうや」
「そりゃそうだろ。よくも葉璃の声を奪ってくれたな? 足まで奪って、最終的には命まで奪おうとしやがって。そもそも契約がお前の都合に寄り過ぎなんだよ」
「そう言われましてもね、聞いてくださいよ。はじめに助けを求めてきたんはハルポンなんすよ? 俺の方はセナさんに恨みあったし、まぁ契約はちょっとこっちに寄らせてもらいましたけど? それでもいい言うたんはハルポンなんで」
「葉璃、本当にそう言ったのか?」
「えっ? えぇっ?」
セナさん発信の即席会話に突然巻き添えを食うたハルポンは、妙な顔して分かりやすく戸惑った。
右に左にと視線だけをキョロキョロさせて、どう答えるんが正解かを考えてる生真面目ちゃん。
セナさんはその様子を見て、こちらも超〜分かりやすく目尻を下げてはる。そんで何を言うかと思えば、ハルポンの方に体を寄せての「遅れてごめんな」という甘いボイスでの囁きやった。
「これでも大急ぎで来たんだけど。結果一時間も遅刻しちまった。マジでごめん」
「い、いえ……大丈夫です。お疲れさまです、……」
「待った?」
「えっ、あの、……はい」
「そっか。寂しかった?」
「……っ、…………はい」
「俺も」
「え……」
二人が見つめ合いだしたくらいから、俺は一瞬で蚊帳の外に追いやられた。
周りに聞こえんようにコソコソっとイチャイチャし始めて、まるで二人の世界や。
歌番で出演被った時なんかに楽屋でよう見てた光景やけど、今はマズイんちゃうの。
聞いちゃいかん、むしろ止めなと思いつつも、勝手に耳がダンボになったからには俺にもイチャイチャが筒抜けで、周囲の雑音がまったく気にならんくなった。
「葉璃のコスプレ見たかったんだ。合法的にハイクオリティーなイメチェン姿見られるじゃん? 毎年楽しみなんだよ。今年は人魚姫だって聞いていろんな妄想してたけど、やっぱ本物には敵わねぇな」
「……上等なのはパッと見だけですよ」
「そんなことない。誰よりも綺麗だよ」
「いえ……俺なんかより聖南さんの方が何億倍も素敵です。今年は人魚の神様ですか?」
「……人魚の神様?」
「頭に王冠があるし、すごい武器持ってるし、衣装も白いし……」
「言いたいことは分かるけど、神様じゃなくて王様な」
「あぁ! 王様! なるほど……王様、……」
「葉璃だけの王様だ♡」
「えっ……」
あかん……。ゲロ甘や……。
いつも思うけど、二人てずっとこんな会話してんのやな。
ほのぼのイチャイチャ、聞くに耐えんほどではないがこっちまで恥ずくなる。
仲良しこよしはええ事やけどなぁ、時と場所を考えた方がよろしいんやないの。
「でもなんで王様がルイさんをやっつけるんですか?」
「俺が葉璃の父親だからだろ。葉璃が理不尽な契約結ばされてヤバくなったんだ。そりゃキレるって」
ハルポンはあのアニメ映画観た事ないんやろか?
納得したり首傾げたり、よう分からんな。
「お父さん……聖南さんが俺の……」
セナさんが自分の父親役やと聞いて、まじまじとその麗しいお姿を見つめとるんは、ほんまにそう思い込もうとしてるに違いなくて。
生真面目が服着て歩いてるようなもんやから、セナさんと自分が親子設定ならちゃんとそういう風に振る舞わないかんと、ハルポンの事やからそこまで考えてそうやん。
「……なぁなぁハルポン、コスプレしてるからいうてキャラに入り込まんでええねんで」
「あっ、そうですね! 聖南さんが俺のお父さんって言われても全然そんな風に思えないですし!」
「近親相姦になるしな」
「きっ……!?」
あーあ、ほら見てみ。ハルポン絶句しとるやんけ。
セナさんの爆弾発言は、そらもう周囲に聞こえんよう充分に注意はしてはった。そやけどダンボになった俺の耳にはバッチリ聞こえてしもて、思わず左隣で荻蔵さんと談笑中のケイタさんを伺う。
そやけどケイタさんは人魚のカップルよりも荻蔵さんとの会話に集中しとって、こっちにはあんまり興味が無さそうなんが不思議やった。
セナさんとハルポンのアレコレをやたらと聞きたがるはずのケイタさんが、何やら神妙に荻蔵さんの話に耳を傾けとるとは新鮮でしかない。
俺の向かい側の位置に腰掛け直した恭也も、アキラさんと真剣に話し込んどるし……。
構図的に、イチャイチャカップルにツッコミ入れられるんは俺しかおらんという状況になっとる。
「あのですね……セナさん。誰も聞いてへんからって大胆発言過ぎやしませんかね」
「誰も聞いてねぇんだからいいじゃん」
「よくないですよっ! 誰もって、ルイさんが聞いてるじゃないですかっ」
「聞いてたのがルイだけで良かったよ」
「ほんまっすよ」
「そういう問題じゃないです!!」
「あはは……っ、葉璃どしたの。顔真っ赤だぞー」
「……っ、もうっ」
我が発言を棚に上げて、茹でダコになったハルポンのほっぺたをぷにぷにしとるセナさんの楽しそうなこと。
セナさんがハルポンにゾッコンなのがよう分かるわ。
二人の関係を知った時、俺はてっきりハルポン側が好き好き光線をビシバシ送ってデキたんかと思てたけど、それは大きな間違いやった。
どっちかいうたらセナさんの方がハルポンを溺愛しとるんよな。
卑屈ネガティブなハルポンがセナさんから逃げんように、公私共にたっぷり愛情注いでんのを見せつけられると、俺はやっぱり複雑な思いが渦巻いてまう。
ハルポンがその正体やったヒナタちゃんの事は、吹っ切れたはずなんやけどな。
……なんでやろ。
「お、いよいよか」
ステージ脇に視線をやったセナさんの声に、俺は振り返った。
賑やかな会場内に響き渡ったのは、事務所スタッフであろう女性がマイク越しに着席を促すアナウンス。
散り散りになっていたコスプレ芸能人たちがアナウンスによって卓に収まっていくのを見計らって、ステージ上に移動式の巨大モニターが設置された。
パーティー開始から一時間と十五分。
例の企画とやらが始まるらしい。
「セナさんの到着待ってたんかいうタイミングっすね」
「それはどうかな〜」
遅刻組はセナさんで最後やったんか、はたまたセナさんがおらな始まらん企画なんか知らんが、絶妙のタイミングに笑ってもうた。
司会者がアキラさんが言うてはった通りの企画内容が説明しよる最中、空のグラスをテーブルに置いたハルポンから肩をつんつんされて振り返る。
「ルイさん、ルイさん」
「ん? なんや?」
またこの子は重要な話を聞かんつもりなんか。さっきも社長のありがた〜い話の間ずっとあくびしよったし……って、それは俺もか。
「次、ルイさんが飲んでるのをオーダーしたいんですけど、それなんでしたっけ?」
「サラトガクーラーや」
「さ、サラ、さらとが、サラ……っ」
「サラトガクーラー」
「さらと、がっ、クーラー」
「サラトガクーラー」
「さら、とが、クーラー」
「なんでスッと言えんの」
「わ、分かんないです。なんか早口言葉みたいで……」
「なんでやねん」
こんな簡単な単語で「舌を噛みそう」と呟くとは、どんだけベロ短いんや。てかおかわりのオーダーで好物のココアを押しのけたサラトガクーラー、マジですごいやん。
企画内容の説明そっちのけになった俺は、会場の雰囲気的にオーダー出来るようになったらハルポンの分も持ってくると約束した。
すみません、と言いながらも嬉しそうに「へへっ」と笑った顔を向けられた俺が、いったいどんなツラしてたんかは知らん。
ただハルポンの向こう側から、とても直視出来ん少々ヤバめな圧と鋭い視線が飛んできとる。
おそらく、おそらくやで。
ちょっとコソコソ話しただけやん、と当然の言い訳すらできへんほど腑抜けたツラしてたんやないかな。
でもしゃあないやん? 可愛えと思たんやもん。
嫉妬深い王様からやっつけられんでも、俺はハルポンのためやったら進んで、喜んで、パシリくらいやったるわ。
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