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《2》
数日後。ハンター協会からの依頼でシオンが再びあのビルの屋上を訪れると、そこには倒れた男と狙っていた盗品を持ったアズマがいた。アズマは先日とは違って、大きなランチャーを構えていた。
「なんだ、遅かったなチワワくん」
「ゆ、結城アズマ!」
「俺はこいつの命に興味は無い。身柄はお前が好きにしろ」
「っな――!?」
アズマはランチャーを背負うと、またビルから飛び降りた。その態度にしばらくポカンとしていたシオンは、男の「うぅ……」という呻き声で我に返り、ストレス発散の如く一瞬で男を消滅させた。
「……あのやろー……っ!」
その後、狙ったかのようにシオンとアズマのターゲットが度々重なった。シオンは妖の身柄、アズマは妖の財産や一般人からの盗品が目的であり、依頼もそれぞれ別の場所で別の担当者から来るのがほとんどだが、その依頼自体がほぼ同じタイミングで来るようだった。
そして何度目かの対峙。
「またてめーかよ」
「うるさいなチワワくん」
「チワワじゃねーよ結城アズマ!」
「フルネームで呼ぶな幼稚園児か」
「あのぉ……?」
当の妖が引いてしまうほど、二人の言い合いが続く。
「てめーこそ、人に名前を聞いたならちゃんと呼べ!」
「あだ名の文化を知らないのか?」
「それは相手の受け入れ次第だろ!」
「あのー、お二人とも、夜中なのでその辺に……」
「バケモンは黙ってろ!」
「バケモノは引っ込んでな!」
声をかけた妖に、シオンとアズマは同時に叫んだ。アズマがランチャーから飛び出たロープで妖の動きを止め、妖の体内から目的のモノを奪うと、シオンが刀で妖の首をかっさいた。妖は泡が破裂したように霧散し、アズマとシオンが持つ携帯端末に報酬受領の画面が同時に表示された。
「はぁ……」
「なに溜め息をついている? 手間取ったのはお前のせいだろう?」
「人のせいにしてんじゃねーよ」
「お前がグダグダ突っかかってくるからだろう?」
「なんだと!?」
シオンはカッとなってアズマの胸ぐらを掴んだ。アズマは身長188cm、シオンは176cmで12cmの差がある。つり上がった冷たい瞳を見下ろしたアズマに、シオンは三白眼で睨みつけた顔を近付けた。頭突きでも食らわせてやろうと背伸びをしたその刹那。
「……!?」
「っ!?」
二人の口唇が重なった。二人は目を見開いたまま固まり、スローモーションの映像のようにゆっくり離れた。シオンの手はアズマの服を掴んだままだ。
「……お前、今何をした?」
「えっと……事故?」
「こんな馬鹿げた事故があるか」
「わ、悪かったな! オレだってビックリしてるんだからおあいこだろ!」
「はぁ……馬鹿馬鹿しい。俺は帰る」
(……あれ?)
シオンの手を払い、ジャケットを整えて踵を返したアズマの背中にシオンは首を傾げた。真っ暗な空間。その中に消えていくアズマの横顔が――――。
(赤い?)
恋する乙女の色に染まっているように見えた。
「…………いやいやいやいや! あいつはおじゃま虫だし格好つけてクールに見せてるナルシストだしちょっとオレより背が高いからって三白眼で見下ろしてくるやな奴だし!」
シオンは自分に言い聞かせるように言いながら首を左右に振ると、携帯端末を ポケットにいれて自分も自宅へと向かうことにした。
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