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1.始まりの春(3)
小さい頃から同じ剣道場に通っていた鴻上さんは、憧れの先輩で、あんな風になれたらいいな、と思っていた。
あんな事件がおこらなければ、俺だって、鴻上さんと同じ場所に立っていられたかもしれない。
「なぁ、教室、入んねぇの?」
鴻上さんの後ろ姿を見つめていた俺に、たいして俺と背の高さの変わらない男子生徒が、不思議そうな顔で見てきた。
「あ、邪魔して悪い」
もう一度黒板を見て、自分の席に座る。すると声をかけてきた奴は俺の前の席に座った。
「なんだ、俺の後ろだったのかよ」
黒髪をツンツンと跳ねさせて、少し釣り目な感じの一重の大きな瞳。ニヤっと笑った顔が、"海賊王になる!"とか言ってたキャラクターに似てる気がして、思わず俺も笑ってしまう。
「俺、京橋 康寛 。ヤスって呼んで」
「獅子倉 要。要って呼ばれることが多いかな」
「おう、わかった。要。よろしくっ」
ガラッという音とともに、教室の入口に顔を出したのは、40代くらいの男性教諭。俺たちを廊下に並ばせると、列の先頭にいる上級生と思われる男子生徒に、行け、と手を振ってみせた。
体育館につくと、後ろの方の席は新入生の父兄がずらっと座っていて、俺たちは前の空いている席へ移動する。誘導係の先輩たちは、俺たちが座ったらさっさと去っていった。
すーっと体育館の天井を見上げる。
やっぱ中学の時と違って、天井、たっけぇなぁ。そして、広さも倍以上ありそうだ。
くるりと周囲を見回しても、見知った顔は見当たらない。
そりゃそうだ。
美桜台高校は、俺が通ってた中学からは進学したヤツはほとんどいない。いても、俺とはあまり話をしたこともない女子だったはず。顔も覚えてないけど。
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