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1.始まりの春(4)

 俺と鴻上さんと、もう一人。俺にトラウマを植え付けたヤツの3人は同じ小学校に通ってた。二人は俺より二つ年上で、同じ剣道場にも通ってた。二人とも、すごく強くて、いつも尊敬する憧れの先輩だった。  あの年の春の事件が起きるまでは。 「新入生、退場!」  気が付けば、入学式は終わっていた。  ザワザワした中、それぞれのクラスに戻っていく。通りすがりに、親たちが、自分たちの子供の晴れ姿を、と、スマホやカメラにおさめようとしてる姿に、苦笑いを浮かべてしまう。  もう、そんな子供でもないだろうに。  たぶん、自分には、そんなことをしてくれる人がいないから、ちょっとひねてるんだろう、と、頭ではわかっていても、心は素直にはなれない。 「康寛っ!こっちむけっ!」  俺の前を歩くヤスの両親と思われるおじさんと、おばさんが、父兄席の真ん中あたりから声をはりあげている。 「おー!親父、かーちゃん!いぇーいっ!」 ……こいつは、子供か。 高校生にもなって……と、大人なら言うに違いない。俺でもそう思う。それでも、親のテンションに合わせて、一緒に楽しんでる姿を見ると、羨ましいな、と思ってる自分に気づく。 「おい、要、一緒に撮ろうぜっ!」  "親父、撮って~!"と、俺の肩に手を回しながら、父親に撮影させるヤス。それに調子を合わせる父親も楽しそうだ。随分と立派なカメラをカメラマンさながらに構える父親と、スマホで懸命にいい画像を狙う母親。二人の必死さに、思わず苦笑いがこぼれる。 「写真出来上がったら、お前にもやるからよ」  "じゃあな~!"とヤスは両親に手を振って前に進んだ。こいつのテンションに俺はついていけるのだろうか、と思いつつ、なんとか笑顔を作ってお辞儀をする。 ……疲れた。  ヤスは、俺だけではなく、周りにいる奴らともすぐに打ち解けて、あちこちで話の輪に入っては盛り上げている。人見知りがちな俺にはできない芸当だ。  入学式が終わればさっさと帰れると思っていたけれど、担任(さっき来ていた男性教諭)が、いろんな紙を配ったり、自己紹介をさせたりと、意外に時間がかかった。その間も落ち着かなげに動き回るのが、目の前のヤス。手元にあるプリントで頭を叩きたくなるくらいに、落ち着かない。どうも、隣に座った女子のことが気になるらしく、何度もチラチラ見ながら話しかけようとしている。……わかりやすすぎ。  確か、隣に座ってるのは、佐合(サゴウ)さんって言ったっけ。小柄でおかっぱ頭。目がくりくりっとしてるから、可愛らしいといえば可愛らしい。 ……がんばれ。ヤス。  担任の長話が終わり、ようやく解放されて家に帰れる。席から立ち上がり、 「じゃあな。ヤス、またな」  そう言って、さっさと教室を出ようとしたら。 「要」  後ろの廊下側の入口に、にこやかに微笑む鴻上さんが立っていた。

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