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1.始まりの春(5)

 鴻上さんがいるだけで、周りの女子たちの目がハートになってるように見えるのは、気のせいじゃない。 「一緒に帰ろう」  優しく微笑む鴻上さんは、あの頃よりも、ずっと大人びて見える。最後に会ったのは、鴻上さんが中学2年の時だから。4年ぶり……くらいになるのか。 「あの……部活とかいいんですか」  スっと視線をはずしてしまう。  あの時以来。顔を合わせることが嫌だった。助けてもらった相手だけど。あんな状況を見られたことが、嫌で仕方がなかった。  それでも、鴻上さんはいつも通りに接してくれようとしてたのに、俺の方が、耐えられなかったんだ。 「今日は、入学式の手伝いだけだからね」  "さぁ、行こう"と、俺の肩に手を置こうとするけれど、その手に触れられる前に、身体が避けてしまう。どうしてもビクついてしまうのだ。俺よりも身体の大きい男に、恐怖感を感じてしまう。 「……っ!?」  俺の反応に驚いた鴻上さん。すぐにその手は、俺の二の腕に優しく触れた。 「……すみません」 「いや」  昇降口まで行くと、自分の娘や息子を待っている父兄たちと、さっそくクラスメートと仲良くなっているやつらが、集まっていた。その中を、するすると通り抜けていく鴻上さんの後をついていく。  相変わらず、ここでも女性たちの視線を釘付けにしているのに、まったく気にもしていない。羨ましすぎるから、つい、ため息が出てしまう。  校門を出てまっすぐ駅に向かい始める。 「あれ。おじさんや、おばさんは?」  鴻上さんは、急に思い出したかのように、聞いてきた。 「父は出張で……母は……入院してます」 「えっ?そうなの?」  驚いたように、隣の俺を見下ろす。  ……あれ。  鴻上さんの眼の位置が、昔と違う。鴻上さんって、もうちょっと背が高かったと思ってたんだけどな……。 「どうした?」  不思議そうな顔で、俺を見つめる。あれれ。やっぱり、おかしい。 「いや、鴻上さんって、もっと背が高かったイメージがあって……」 「何、俺がチビだって言いたいの?」 「いや、そんなことないですっ。実際、俺の方が背が低いし……」  クスっと笑った鴻上さんは、優しく俺の頭を撫でた。なんだか、子供扱いされたような気分になる。 「お前がでかくなったんだろ。俺、中学の頃から、あんまり、背伸びてないしな」 「……そのせいですかね」  あまりまともに見てなかったから、ずっと大きいイメージでいた。それに気づけば、前よりも怖いと感じなくなってきた。 「……それじゃ、そのうち、俺の方がでかくなったりして」 「なんだと」 「アハハ。俺、まだ成長期ですもん」 ようやく、素直に笑えた気がした。

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