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1.始まりの春(7)
誰もいない家に帰ると、一人でいるという現実がジワジワと俺に"寂しい"という気持ちを思い出させる。
引越しをしてしばらくして、母親の病気が発覚した。それでも、しばらくは通院することで現状維持していたのに。俺が中学3年になった頃には、入退院を繰り返すようになった。そして今は、入院というタイミング。もともと仕事で帰りが遅かったり、出張でいないことが多かった親父だったけれど、母がいたから、親父がいないことに寂しいなんていう思いはなかった。
でも、母が入院している時期に、親父もいない日が続くと、やっぱり一人でいることは寂しかった。それを二人には言えないけど。
「何、食うかな」
そう言っても、買い置きしているカップラーメンを取り出してしまうんだ。一人分の食事の用意をすることのほうが面倒に感じて。栄養バランスとか、考えてないって、母には怒られそう、なんて思ってクスッと笑ってしまう。
一息ついたところで、親父と母にメールをした。一応、無事に入学式は終わったことと、友達ができたこと……そして、鴻上さんと会ったこと。明日からは、鴻上さんとは、そんなに会うこともないだろうと思うけど。
ふと、帰り際に優しく笑った顔を思い出す。あの人の笑顔で、何人の女子が恋に落ちるんだろう。罪作りな人だよな、と苦笑いしてしまう。
すぐに返事がきたのは、入院中の母からで。
『要ちゃん、入学式の写真はないの?』
ああ、全然撮ってないや。そういえば、ヤスの両親が撮ってたのがあったっけ……。
"俺は撮ってない。友達に聞いてみる"とだけ返事を返した。
明日、会ったらヤスに聞いてみよう。学校が始まったら、春休みの間のように何度も顔を見に行くことができないから。
親父からは、案の定、返事もなく、俺も返事を待たずに、さっさと布団に入り込んだら、ものの数分で寝てしまった。
やっぱり、俺、疲れてたみたいだ。
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