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1.始まりの春(11)

「そういや、佐合さんって、家どこ?」  俺とヤスは駅までは一緒だけれど、電車で向かう方向は逆。一緒にいれば、少しはボディーガードくらいにはなるんじゃないか、と思ってきいてみると、ヤスと方向が一緒だったらしい。 「だったらさ、部活の後は、しばらくヤスに送ってもらったら?」  なんとなく、ヤス的にはおいしいだろうとパスを出したつもりだった。そんな俺のパスに大喜びしていたヤスを、思い切り蹴り飛ばすような佐合さん。 「えっ!そんな、悪いからいいよ」 「いやいや。また何かあったらヤバイし。特に、あいつら、加洲高だし」 「うんうん、俺だったら大丈夫だよ」  身を乗り出して、猛アピールするヤス。実際、あの学校のやつらでいい話を聞いたことがない。 「どうせ、俺たち暇だし。な?」  ヤスが、俺に同意を求めてくる。いやぁ、結構、必死だね。ニヤニヤしながら、頷くと、佐合さんが恥ずかしそうに俯きながら、小さな声で言った。 「……獅子倉くんも待っててくれるの?」 ……?  彼女の言い方が、若干、引っかかる気がしないでもないが。 「え、あ……ヤ、ヤスが待ってる時間が寂しいっていうなら……」 「い、いや、俺、全然大丈夫だけど……」  だよなぁ、と思いながら佐合さんを見ると、すごく寂しそうな顔。え。なんか、やばい展開?チラリとヤスのほうを見れば、こっちもなんとも微妙な表情で。こ、これは俺がフォローすべき? 「あ、ま、俺の用事がないときくらいなら……つきあうけど」 「本当?ありがとう!」  ぱーっと笑顔がこぼれる佐合さん。ああ、わかりやすいといえば、わかりやすいけど。残念ながら、俺は佐合さんのことは、クラスメイトの一人としか思っていないわけで。猛アピールしているヤスに対して……残酷すぎる。  一方のヤスと言えば、俺を見ている無言の視線が痛くて仕方がない。 「……」  ヤスに恨まれてる気がするのは……俺だけだろうか。いや、この痛い視線は完全に"邪魔者め"と思っているに違いない。この空気、なんとかしたい、と思っていたら。 「要?」 俺の名前を呼ぶ声がした。

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