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2.逃げたい。逃げない。(2)
試合はすでに中堅まで進んでいた。やはり相手が強豪校だけに、うちの高校はすでに2敗。やっぱり、強いところは違うな。そう思って、鴻上さんの姿を探す。
案の定、鴻上さんは大将。正座をして姿勢正しく試合場を向いている。面の中の瞳は、睨みつけるように見ているようだった。相変わらず、剣道着姿は凛々しくて、その姿に目が離せなくなる。
たぶん、それは前の方に固まって見ている女子生徒たちも同じで、張り詰めた空気のせいか、声も出さずにひたすら鴻上さんに釘付けになっている。
うちの選手は相手校の中堅の動きについていけてないのは、誰が見ても明らかで、散々に打ち据えられたかと思ったら、最後には相手に面をとられて下がってきた。
その人に向かって、無言で頷くだけの鴻上さん。ふと、こちらを見た鴻上さんと目が合った。
その瞬間。
ずっと厳しい顔つきだったのが、ふわっと優しい顔で俺に微笑んだように見えた。その微笑みにどう応えていいのかわからず、曖昧な笑顔を返すしかなかったのだけれど、俺の前にいた女子たちは、自分たちに微笑んだと思って、小声でキャーキャー騒いでいる。
……いや、実際、俺に向けてじゃなかったのかも。
俺が勘違いしてるのかもしれない、と思ったら、恥ずかしくなった。慌てて、対戦相手の大将のほうを見た。
……っ!?
相手校の大将は、俺を凝視していた。
まるで突き刺すような視線は、俺の心臓を貫くように、面の中から暗い暗い瞳で俺を動かせなくさせた。剣道着の大垂に記された名前は。
『馳川』
そして、あの瞳を思い出した。
まさか?
……なんで。なんで、お前がそこにいるんだよっ。
思い出したくない、アイツ。
馳川 亮平
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