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2.逃げたい。逃げない。(3)

 なんで、こいつが。  なんで、こいつが。  なんで、こいつがっ!?  その言葉が、延々と、ぐるぐると、俺の頭の中で渦巻いている。そして、こいつの視線から逃れられず目を逸らせずににいる。段々と自分の呼吸が荒くなってきてるのがわかるのに、動けない。 「大丈夫か?」  誰だかわからないけれど、後ろから俺の肩に手を置く人がいた。その声を聞いた瞬間に呪縛がとけたように、足元から崩れ落ちる。それに気づいた前にいた女子たちが、軽い叫び声をあげた。 「保健室に行こう」  誰だかわからない声が、俺を促して、立ち上がらせた。目の前がクラクラして自分の足で歩けてるのか。 "ああ、この人に申し訳ない……"  それでも、顔を上げられず、ただ左右の足を前に出す行為に集中する。 「すみません……」  保健室のベッドに横になりながら、連れてきた人の姿をようやく見ることができた。  どことなく、鴻上さんに似た感じの顔立ち。鴻上さんがモデル級のイケメンだったら、この人はもう少しほんわかした雰囲気の持ち主か。大学の名前の入ったジャージをはおっているから、きっと大学生なのかもしれない。 「少しここで休むといい。」  少し心配そうな顔をしたけれど、そのまま静かに部屋から出て行った。  「はぁ……っ」  鴻上さんは知っていたのか。アイツが来ることを。  知ってて俺に応援に来いと言ったのか。  それとともに、アイツのあの暗い瞳を思い出すと、身体が震えてきた。白い掛け布団を頭からかぶって、震えを止めようと身体を小さくした。  なんで、俺なんか呼んだんだよ……。  涙がポロポロと零れてきた。

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