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2.逃げたい。逃げない。(7)

 今日は佐合さんは部活がない日で、ヤスは俺とファストフードの店で、惚気話を満喫中(ヤスが)。 「そりゃ、よかったな。(棒読み)」  そう言いながら、俺はポテトを口に放り込む。 「やっぱ、茜ちゃん、カワイイよ~」  スマホで隠し撮りした画像をニヨニヨしながら見ているヤスが、なんともカワイく見えて、こっちもニヨニヨしてしまう。(いや、カワイイってのは、そういう意味ではなく) 「で。もう告白したの?」 「コ、コクハクッ!」 ……おいおい、コーラの入ってるカップ、握りつぶすなよ。 「まだかよ」 「……だってよ……」 「お前、チャンスはいくらでもあるんだからさ」 「だってよぉぉぉ……」  今度は泣きだした。なんだよ。そのテンションの急降下。 「俺との会話の半分以上が、お前の話なんだぜっ?」  思わず、コーラが飛び出した。 「おいっ!飛ばすなよ!服まで汚されるなんて、これ以上、俺を悲しませるなよっ!」 「あ、わりぃわりぃ」 ……佐合さんって、鬼畜?どう見たって、ヤスがベタ惚れなのわかるだろうに。 「でもさぁ、お前のこと話してる時の茜ちゃんて、幸せそうでさぁ。俺まで幸せな顔になりそうなんだよぉ……」  "ポッ"と頬を染めてるヤス。  ……いいのか?いいのか、それで?  この状況を、俺がどうこうするわけにもいかず、とりあえず生暖かく見守るしかないのだろうか。 「そういえばさ」  再び、急に表情を変えて真面目なヤスが現れる。 「あのおねーさんたち、大丈夫なのか?」  ヤスもやっぱり気が付いていたのか。とりあえず、教室に来た後、特に何をされたわけでもない。 「大丈夫じゃないかなぁ……」 「いやぁ、あの手の女の人とかって、なんか裏でやりそうじゃない?」 「……お前は、女子かっ!」 「フッ、だてに姉貴にこき使われてないしっ!」 そこで胸張ってどうする……。そうか、姉貴がいるのか、ヤスくん……。 「だから佐合さんも、気安く話せるのかもな」 「そうかもね……って、俺の話はいいからさ」 「いや、俺もいいよ」  だって、実際、何もないし。 「ふーん……まぁ、なんかあったら言えよ?」 「なんかあったらな」  ヤスも心配性だなぁ、と俺は思ってた。  そろそろ帰ろうかと店を出たところで、剣道部の集団と遭遇したのは偶然だ。大人数でぞろぞろと歩いていくのをやりすごそうと、立ち止まっていた。 「要」  どこからか、鴻上さんの声が聞こえてきた。その声を探すように、俺はキョロキョロと見回していると、集団の中から"ヨッ!"と目の前に現れた。 「あ、お疲れ様です」 「今、帰り?」 「はい」 「じゃあ……」 「鴻上先輩っ!」  うわっ!と思ったら。あの女子二人組が、鴻上さんの両腕に飛びついてきた。 「な、なんだ?」  鴻上さんも驚いて二人を見比べている。 「あの~、さっきの練習の時のことで相談したいことがあってっ!」 「そうなんですっ!」  そう言いながら、二人でグイグイと鴻上さんを引っ張っていく。 「え、あ、ちょっとっ」  俺の方を振り返りながらも、二人の力を振りほどくこともできずに、どんどんと離れていった。

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