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2.逃げたい。逃げない。(9)
「要、悪い」
申し訳なさそうに言いながら、隣の車両のほうを見ている。
「いいえ。……別によかったのに」
そんなに気になるなら、俺は一人でもよかったのに。なんだか、ムッとしてしまってる俺。
「俺がよくない。」
そう言うと、視線を窓の外を向けたけど……ガラス越しに見ているのは……俺?
「あいつ……祥吾は副将なんだよ」
「そうなんですか」
「ああ。2年だけど、実力では断トツかな」
"俺の次だけど"なんて茶化して言いながらも、なんだか、祥吾っていう人を自慢しているように聞こえる。
「……そうですか。」
俺にそれ以上、何が言える?もう剣道から離れた俺に。
「……もう、やらないのか?」
「……」
「俺は……もう一度、要の剣道、見たい」
今の俺に剣道が無理なの、わかってるくせに。きっと、それは願望でしかないのかもしれない。
「……鴻上さんが、アイツに勝ったら、考えてみますよ」
勝ってほしいけど。そもそも対戦できるかわからないし。だから、そう言ってしまうのかもしれない。それをわかっててか、鴻上さんは笑う。
「責任重大だな」
降りる駅に着くころには、剣道部の人たちはいなくて、祥吾と呼ばれた人もいなかった。
「そうだ。今度の日曜日の午後、空いてるか?」
「……基本、暇なんで空いてますけど」
「おばさんのお見舞いに行きたいんだけど」
「部活は?」
「午前中で終わりの予定なんだ」
「そうですか……じゃあ、こっちに着く前に連絡ください。駅からバスなんで」
「わかった。」
スッと俺の二の腕を掴む。
「気を付けて帰れよ」
鴻上さんは優しく微笑むけれど、素直に笑顔になれない俺がいた。
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