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3.乗り越えるモノ(1)
なんだか知らないけど、鴻上さんと会うたびに、祥吾とかいう人か、あのおねーさんたちが邪魔をしている気がする。そんなにしょっちゅう会うわけでもない。そもそも学年が違えば、学校の中でだって、すれ違う機会も少ないのに、その少ない中でも、なんだかんだと、あの人たちが現れる。もう、それはもう、あからさまに。
そのせいなのか、最近では鴻上さんも、イラッとした顔を見せるようになった。
「要」
金曜日の昼休み。わざわざ鴻上さんが、俺の教室にやってきた。鴻上さんが来ると、必ず、クラスの女子たちが目をハートにしてるのを見ているだけに、なんとも、こそばゆい。俺を見てるわけじゃないのに。
「どうしました?」
「日曜なんだけど」
「鴻上せんぱ~いっ!」
「見つけた~♪」
今日はおねーさんたちですか。そうですか。
「あっ、か、要、後でメールするっ」
女子には優しい鴻上さん。彼女たちに掴まれると、無理に逃げようとはしない。まぁ、仕方がない。"いってらっしゃ~い"と、声には出さずに手を振って見送る。
「獅子倉も大変だな」
俺と同じように鴻上さんを見送る平沼。
「いや、俺は全然大変じゃないけど。鴻上さん、モテモテで大変そう」
「……いやぁ……」
なんだか煮え切らない感じ。
「どうかした?」
「うん……」
何か言いたげなのに、その勇気がないのか、モジモジしてる。おい。男だろ。
「気持ち悪いな。はっきりしろよ」
ムッとした顔で言うと、眉毛を八の字にしてボソボソと言い出した。
「先輩たち、鴻上先輩がお前のところに行く時だけ邪魔してるっぽいからさ」
「……ふーん」
それは言われなくてもわかってるし。というか、わかりやすすぎだし。
「部活じゃ、あんなにベタベタしてないんだぜ。むしろ、サバサバ?」
サバサバしてるほうが想像できないけどな。
「それと……時々、河合先輩と一緒にいるとき、聞こえてくるんだよ」
「うん?」
「お前の名前」
「河合って?」
「いつも副将やってる人」
鴻上さんに"祥吾"と呼ばれた人だ。あからさまに俺ターゲット。ロックオン済みなのは自覚してたけど。
「なんだってんだろうな」
「……まぁ、邪魔なんだろうな。お前が」
「はぁっ?」
「あ、いや。俺がそう思ってるんじゃなくて、あの人たちが、だぞ」
両手をぶるんぶるん振り回して慌てて否定する平沼。
「わけわかんねぇ」
「……うん。まぁ、なんだ、河合先輩って……あっちの人だからさ」
「あっち?」
いわゆるゲイっていうヤツだ。まぁ、あんなカワイイ顔してるんだし、そっちではモテモテなんだろうな、とも思うけど。というか、それ公言しちゃってて、大丈夫なんだろうか。
「ん?自分に関係なければ、別にいいんじゃない?まぁ、そういう意味じゃ、狙われてる鴻上先輩、可哀想だけど。まぁ、本人は気付いてないっぽいけどね」
あ。
ああ、そうなんだ。
「河合先輩、実力あるし、基本、女子にも優しいからね。普段はあんまりゲイっていうの感じないんだよね」
それでも、俺に向ける、あの視線は気分悪い。
「鴻上先輩、あきらかに、お前のこと好きだもんな」
サラッとすごいことを言われて、恥ずかしくなった。
「な、な、何言ってるんだよっ」
「照れるなよ~。俺だって、見てればわかるし」
平沼のニヨニヨ笑いに、俺はどう反応すればいいのだろうか。
「あ。でもさ、その河合先輩ってのはわかるけど、あのおねーさんたちは?」
「ああ。あの人たち、仲いいんだよね。なんでか知らないけど。なんか協定でも結んでんじゃないの?本来なら、そんな嫌な人たちじゃないんだけどなぁ」
"まるで悪者扱いだな"と言いながら苦笑いしてるし。
「はぁ。めんどくさい」
「……がんばれ」
そう言って、俺の肩を叩いて去っていく。がんばれって、何を?
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