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3.乗り越えるモノ(6)

 俺たちがお茶するなんて言ったって、行くところなんかは定番のファストフードになるわけで、駅前のほうの店に来ていたりする。この時間、微妙に剣道部と遭遇するから、早めに帰りたいんだけど。自分から言いだしただけに、言いにくい。  俺と佐合さんは紅茶、ヤスは、なぜかストロベリーシェイクに……なぜポテトのL。 「いや、しょっぱいのも食べたくなっちゃって」  わからないでもない。わからないでもないが、なぜストロベリーシェイク。なぜポテトのL(二度目)。そう言いながらも、俺も佐合さんも、そのポテトに手を出しているけど。  俺たちが座ってる席の対角線上の席に、制服姿の男の集団が入ってきた。加洲高の連中だ。前に佐合さんにちょっかいを出してきた奴らとは違う。もうちょっと、たちが悪そうだ。 「なんか、早目に出ようぜ……」  珍しくヤスの顔が曇っている。 「どうした?」 「ん、あいつら……ちょっとヤバイと思う」  野生の勘?ふと、集団の真ん中にいる男子と目があった。あのむさ苦しい集団の中で、まるで、一輪の花のような、きっと、"姫"とか呼ばれてそう。サラサラの黒髪、黒目がちな大きな瞳、ぷっくりとした赤い唇、女子だったら、相当な美人の部類に入りそうだ。 ……いや、男でも"美人"と言われそう。 "フッ"  ドキッとするような微笑みを見せたかと思ったら、周りの奴らと話し始めた。その横顔も、色っぽい。 「すごい美人さんだね」  佐合さんも、あの人に目を奪われている。 「うん、でも、佐合さんのほうが可愛いよ。」  実際、あの人のは、まるで棘なのか毒なのか、そういうものを持っている薔薇のようだ。 「そ、そうだよっ!茜ちゃんは、可愛い!断然、茜ちゃんのほうがいい!」  力説するヤスを、頬を赤らめながら楽しそうに見ている佐合さん。この二人、けっこうお似合いなのにな。 「あ、そうだ。」  ふいに思い出してヤスに話しかけた。 「今度の土曜日、県の武道館で、剣道部の県大会があるんだけど、お前って、暇だったりする?」  鴻上さんに言われたものの、一人で見に行く勇気が、ちょっとだけ足りない。誰か一緒に行ってくれたら、と思っている間に、県大会直前になっていた。 「あ?暇っちゃ暇だけど……剣道とか興味ないしなぁ……」 「まぁ……そうだよなぁ……」  仕方がない、一人で行くか。 「あ、あのっ!」  急に身を乗り出してきた佐合さん。 「う、うん?」  つい、身を引いてしまう俺をお許しください。 「私、暇だけどっ!」  上目遣いで、俺に迫ってくる。だから、それ、ヤスにやって。しかしなぁ、彼女と二人っていうのは、と、チラリとヤスを見る。 「えーと、つきあってくれるの?」  俺の一言は、二人に爆弾を落としたらしい。佐合さんはトマト級の真っ赤になり、ヤスはびっくりするくらい血の気が引いている。 「え、えと、つきあうっていうのは……」 「だ、だったら、俺も行く!!」  こんなにわかりやすいのに。佐合さん、鈍すぎる。すっかり、県大会に行く話で盛り上がってた俺たちは、あの美人が意味ありげに見てたのに気づかなかった。

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