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3.乗り越えるモノ(7) - R18

「んんっ……ふ、ふんっ……」  薄暗い青い灯りが、モノトーンで統一されている部屋を色づかせている。獣の濃い匂いと、じゅるじゅると水音が響く。ベッドの上に腰かける一人の制服姿の男が一人。そして、その男の股間に顔を埋める裸の男。 「……自分で解せ」  冷ややかな声に、裸の男はベッドの男のモノを握りしめていた右手を、躊躇なく自らの後孔に伸ばしていく。自分のモノを咥えながら目の前にひざまづく男を、冷たい眼差しで見下ろしているのは、河合 祥吾。剣道着姿の凛々しくて、優しい笑顔の彼を知っている者は、今の彼を見ても別人と思うかもしれない。 「んっ、んんっ、ふっ……ん……」  恍惚の表情で口いっぱいの河合のモノを咥えこみ、欲情した目で見上げているのは、あのファストフード店で要たちを見つめていた、毒をもったような美しい薔薇……三平 悠(ミヒラ ハルカ) 「あいつ、やっぱり来るんだ……」  そんな状態でも無表情のまま、壁に貼られている大きなパネルに目をやる。河合の言葉に、コクコクと頷きながら河合を見上げている悠の眉間には、深いシワが刻まれる。 「ん、ふんっ……んんっ」 涙目になりながら、必死にしゃぶりつき、自分に見向きもしない河合を見つめ続ける。 "自分を見て欲しい" "自分を抱いて欲しい"  そのためなら、河合の言うことなら、なんでも聞く。例え、それが、他の男に抱かれることであろうとも。小さな口にいっぱいに咥えこんでいた河合のモノから、悠は涎が溢れてらてらとした唇を離した。大きくそそり立つそれから離れていく唇に、室内灯に照らし出される銀糸がつぅっと伸びていく。 「し、祥吾っ、も、もう……ちょうだい……」  十分に解した後孔をひくつかせながら、無意識に空いている手で悠自身を水音をたてて扱き始める。切なげに見上げても、今の河合の視線は悠を見てはいない。悠の言葉を無視して、彼が見つめるパネルには、剣道着姿の鴻上の全身が写されていた。 「あの人の笑顔……あの人のすべては……俺だけのものだったのに」  小さくつぶやきながら、ギリギリと歯を食いしばる顔は、普段の優しい笑顔とは真逆。嫉妬と怒りで、ひどく歪んでいる。 「クソッ」 「うあっ」  悠の柔らかい髪をつかみ、綺麗な顔を歪ませた悠を見下ろした。鴻上と同じ黒髪をしているけれど、顔を見てしまえば、鴻上とは違うということに気づかされてしまう。 「えっ、あっ……!」  勢いよく立ち上がると、腰かけていたベッドに悠を突きとばす。目の前に白くて細い腰が突き出される。  祥吾は高校1年の時の合宿所の風呂場で見た、鴻上の裸を思い出していた。あの人の背中はもっと広い。そして、もっと筋肉がついている。  その違いにイラつきながら、高く突き出された悠の腰を強引に掴むと、後孔に自身をあてがい思い切り突き刺した。 「ひゃぁ!んんあっ!ああっ、ん……あんっ」  十分に解されたそこは、河合自身の存在を喜ぶようにずぶずぶと咥えこむ。  これが、あの人の後孔だったなら。そう思っただけで、自身が大きくなってしまう。 「あっ、お、大きくなっ……はあっ!ああっ……んあっ……!」  この啼き声も違う。あの人はこんな声で啼くわけがない。  悠の零れる啼き声にも苛立ちを覚え、ただの欲望を叩きつけるように、肉がぶつかり合う音が響く。 「くそっ、くそっ……!」 「ひんっ、あああっ……し、祥吾っ……祥吾っ!」  そして、二人は貪るように行為に没頭していく。悠は河合を、河合は鴻上を想いながら。

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