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3.乗り越えるモノ(11)
どれくらいたったのか。
うっすらと目を開けると、どこか薄暗い倉庫みたいなところにいることはわかる。俺は、床に転がされている状態だった。ズキンとした首の痛みに、首筋を殴られて気を失ったんだということに気づく。
無意識に手をやろうとしたけれど、手が動かせない。
え。なんだこれ……後ろ手に……縛られてる?……そして、足まで……?
「あ~、目が覚めた?」
首筋の痛みを気にしながら、周りを見ようとした。すでにパニックになりかけている。
「何、俺のことは無視?」
なんだか埃っぽくて……嫌な感じが、じわじわと……わきあがってきて……そう、あの時のことを思い出しそう……。
「おーい」
急に目の前に現れたのは、加洲高の美人だった。実際は、俺の脇の古い椅子みたいなものに腰をかけていたようだけれど、場所のことばかりが気になったせいなのか、彼が声をかけていたことにすら気づいていなかった。彼の見るからにこの状況が楽しくてならない、という顔は、美しいからこそ、余計に恐怖を煽る。
「な、なんで?」
そう、なんで?この人のことなんて、前に一度、見ただけだし。そもそも、この状況が理解できない。そして、過去の恐怖の記憶が、今の恐怖を増幅させる。
「なんでって、説明するとでも思ってる?」
"そんなこと、するわけないじゃーん"と、言いながら、美人は俺の顔をその細い指先で撫でまわした。俺の顎を指でクイッと持ち上げる。
「こいつの、何がいいんだか」
まるで、生ゴミでも見るかのような冷ややかな目で見下ろす。こんな眼で見られるようなこと、俺は何かしたのか?
全然、わからない。
美人は怖い顔をしたかと思うと、俺の顎をつまんだ指を思い切り振りほどき、自分のポケットを探った。無言の時間が、嫌な思い出を引きずり出してくる。それを増長させる埃っぽい匂い。
「さてと。そろそろ来るかな」
スマホの明かりに照らされた美人の唇は、艶々と赤い。すると、スマホをしまって鼻歌まじりに俺のシャツのボタンをはずし始めた。
「な、何するんだよっ」
なんとか離れようともがくけれど、手も足も縛られているから、上手く逃げられない。そんなことは気にしない、と、ばかりに、楽し気にボタンを次々とはずしていく。ボタンをすべてはずすと、下に着ていたTシャツがあらわれる。
「んー、やっぱ、Tシャツはやぶいちゃおうかなぁ」
そう言った途端、思い切り引き裂いた。Tシャツ引き裂くって、どんだけ握力あんの……こんな華奢な見かけなのに。思いもしない展開に、唖然としていると、
「で~、やっぱ、当然~」
バックルに手を伸ばし、ベルトをはずしていく。
「や、やめろっ!」
嫌だ。嫌だ。嫌だっ!
過去の記憶が重なる。
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