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3.乗り越えるモノ(12)

「ククククッ」  小さく笑い声をたてつつ、感情のないまるでビー玉のような目で見下ろしながら、下着ごと俺のズボンを一気に下ろす。 「さすがに、この状況じゃ、元気あるわけないか」  さらけ出された下半身を美人の見下ろす視線が痛くて、身体を屈めて隠そうとした。その時、誰かの足音が聞こえたような気がした。この状況で、誰かに見られることの恥ずかしさ。この状況で、これ以上のことをされるかもしれない恐怖で、助けて欲しいのに思うように声が出せない。 「ヤ、ヤメロッ」 「ダメだねぇ~。もうちょっと楽しませてよ」  片手でシャツの襟を掴むと俺の身体を起こし、奴の冷たい手が、鎖骨のあたりをなでる。そして、ふいに顔を近づけてきた。 「痛っ。」  鎖骨の近くに、チクッとした痛みが走る。顔を離しながら、ニヤリと笑う。 「さてと、あいつが来る前に証拠写真っと」  勢いよく俺を床に放り出すと、美人が再びスマホのカメラを俺に向けた時。倉庫のドアが思い切り開き、外の明かりが倉庫の中を明るくした。 「……悪いな。お前の目論見通りにはいかないよ」  まさかっ!?思い出したくない声が聞こえてきた。 「……早すぎなんだけど」  美人が冷めた目で見つめた相手。 「な、なんでっ」  逆光であっても、わかる。こいつの姿を見ただけで、どんどん血の気が引いていく。  馳川 亮平・・・っ! 「要っ」  な、なんで、そんな悲しそうな優しい目で見るんだ。  お前は、そんな目で俺を見るなっ。  お前に、そんな目で俺を見る資格なんかないっ。  嫌だ。これ以上、俺にあの時のことを思い出させるなっ。 「あとちょっとで綺麗に撮れたのになぁ」  残念そうに言って立ち上がる美人。  馳川が鋭い眼差しで、彼を睨みつけながら、俺のそばに駆け寄る。とても必死な顔が、あの時の馳川の顔と重なる。 「い、嫌だっ。近寄るなっ!」 「っ!?」  俺の恐怖はすでに限界だった。 「イヤァァァァーーーーーーーーーッ!!」  そして、俺は、再び暗闇に落ちた。

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