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4.守れなかったモノ。守りたいモノ。(3)

 息苦しさの限界を感じ始めた頃、要の父親が、久しぶりに我が家にやってきた。たぶん、要の事件が片付いて以来。  要のためを思って和解に合意するまで、弁護士をやってるうちの叔父との打ち合わせのために、何度もわが家にやってきていた。要とは違って、とてもガッチリとした男らしい感じの人。眉毛がキリリとしていて、要の優しい面差しとは真逆。きっと、要は母親に似たんだろう。それでも、久しぶりに見た要の父親は、以前にもまして、疲れた表情をしていた。  親父同士の話に、俺は同席させてもらえず、自分の部屋で何が話されてるのか、俺にも話してくれるのか、悶々としながら待っていた。結局、要の父親は、俺とは軽い会釈だけをして、帰っていった。 「柊翔、ちょっとこっちに来い」  いつもは、どちらかといえばおちゃらけた感じの親父が、珍しく、真剣な顔で俺を呼んだ。リビングにいたは親父は、"そこへ座れ"と、一人掛けのソファを指さした。母親は、3人分のコーヒーと、たぶん、要の父親が持ってきたクッキーをテーブルに置いた。 「要くん、覚えているよな」  口元に持っていったマグカップが止まった。 「ああ」  人から要の名前を聞いただけなのに、心臓が跳ねる自分に驚く。でも、それを両親に悟らせるわけにはいかなかった。 「要くんな。今度、高校生になるんだと」  そりゃ、そうだろう。俺が今度高三になるんだから。 「で、お前の通ってる高校に合格したらしい」  えっ?  当たり前だけど、そんな話は初耳で、一瞬、何を言ってるのか、わからなかった。 「なんで、うちの高校?」  正直、俺が通っている美桜台は、学区外。偏差値も高めで、うちの中学からだって、そんなに進学しているやつはいない。俺の場合、その上、剣道もやりたかったから、そこそこ強いうちの高校を選んだんだけど。 「いや、彼の偏差値でいけそうな高校というのもあったらしいんだけどな。私立は金がかかるし。それに」  一瞬、苦い物を飲み込んだような顔をした。 「あんまり、前の小学校の友達とかが来なそうな高校をと考えたら、美桜台になったらしい」  俺を追いかけてきてくれたわけではない、ということに、少しだけがっかりした。しかし、要が俺の進学先を知ってるわけがないか、と思い直すと、苦笑いが出る。そんなこと期待するほうが、バカげている。

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