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4.守れなかったモノ。守りたいモノ。(4)
「それでだな」
クッキーをつまんで、自分の口に放り込む。サクッとしていて甘すぎなくて、俺好み。
「うん」
もうひとつ、手に取ろうとした時。
「入学式、お前、行けないか」
「……は?」
俺が入学式?伸ばした手が止まる。
「なんで」
そう、なんで?
「要くんの親父さんもお母さんも忙しいらしくてな。一緒に行ってやれないらしいんだよ」
「ふーん。でも、要も男だし、別に親なんかいなくても」
「親父さんのほうが心配してるんだよ。」
「うん?」
「……別に中学時代に何かあったというわけではないらしいんだけどな。むしろ、仲のいい友達もいるらしいんだが……それでも、敢えて、お前の高校を選ぶってことは……まだ、彼の心は癒えてないということじゃないか」
「……」
「まぁ、そうでなかったとしても。せっかくの入学式の晴れ姿を、誰かに祝ってもらうっていうのは、嬉しいことなんじゃないか」
うちの高校の制服を着た要。それを想像したら、思わず口元がほころんでいた。
それにしても、無意味に俺なんかが入学式にいること自体が、要も不審に思うんじゃないかと思った。だから、新入生を引率する係を、自ら引き受けた。要のクラスだったらいいのに、と思いながら、入学式の当日。新入生やその保護者が現れだす少し前、先生たちが一年のクラス割を貼りだしているところに佇んでいた。
要の名前は……あった。二組か。残念ながら、俺は四組の担当で、少し離れてしまってた。残念、と思いながら、校門に向かう。
ポツポツと、家族連れの1年生の姿が見え始めた。久しぶりに要に会うと思うと、いつにもましてドキドキが止まらない。試合ですら、こんなに緊張しないのに。
桜の花びらが止めどなく落ちてくる中、俺は、要の姿を探していた。中学生の頃の要が、俺の中で一番最新の情報で、ちゃんと要を見つけられるか、心配だった。でも、そんなことは杞憂でしかなかった。
歩きながら、少し寂し気に、舞い散る桜を見上げている要。
すぐにわかった。
中学時代よりも、少し背が伸びて、顔立ちも少しだけ、がっちりしてきたかもしれない。それでも、相変わらず、中性的な面差しに、つい目を奪われてしまう。きっと、同じように見つめてる女子もいるに違いない。
「要」
俺は、久しぶりに、この名前を呼んだ。
できるだけ自然に。
できるだけ優しく。
目の前に来た要は、驚いた顔をしていた。
「入学おめでとう」
こうして、俺の最後の高校生活の中に、要という宝物が増えた。
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