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4.守れなかったモノ。守りたいモノ。(5)
"要がいるかもしれない。"
そう思って校内を歩く1年の集団を見るたびに、探している自分に気づく。
入学式の帰りに、俺が肩に触れようとしただけで、びびっていた姿には、正直、悲しくなった。それでも、少しずつでも、要の気持ちに近づけるように、気にかけていたつもりだった。
そのせいなのか。
「なんか、最近、顔つきが変わったな」
面白いものを見るかのように、俺の顔を覗き込んできたのは、剣道部の主将の朝倉 潤 だった。
「なんだよ」
昼の弁当を食べながら、校庭を走り回ってる要の姿をじっと見る。クラスメートたちとサッカーに興じてる姿が、楽しそうで口元が緩んでしまう。
「……それって、あそこにいる誰かのお蔭?」
「な、何言ってるんだよ」
「ふーん……そうやって慌てるなんて、お前らしくないな」
「……」
こいつには何も隠し事ができないっていうのは、今までに色々経験済みだけど。
「ほっとけ」
それでも、俺からは何も言うつもりはないけど。
俺の変化に気づいたのは、朝倉だけじゃなかった。祥吾も何も言わないけれど、時々、不審そうに俺を見ている。
そんなに、俺はあからさまなんだろうか。
そうだとしても、要の姿が見えれば、声をかけずにいられない。それに応える要だって、楽しそうだし。このままの関係が、ずっと続くなら、それだって構わない。
要が笑ってくれていれば。
そう思っていたのに。
それすらも崩そうとするのは、やっぱり、亮平だった。
亮平のいる高校から、交流試合の申し込みがあった。剣道以外のスポーツも有名な私立高校で、わざわざ、隣県のうちの高校になんて交流試合を申し込んでくるなんて、おかしいことこの上ない。そんな風に思うのは俺だけで、顧問も主将も、貴重な機会だと大喜びしている。そんなところに、水をさすのも気が引けた。
でも、絶対、亮平がからんでる。
きっと要がうちの高校に入学したことを知ったに違いない。亮平なら、そんなことは調べればすぐにわかるだろう。
だったら、要に見てもらわなくちゃいけない。要には酷だけど、ちゃんと向き合って、その上で、あの時の恐怖から、抜け出してほしいと思った。
でも、それ以上に。要がいてくれれば、俺は亮平に勝てる気がした。
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