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4.守れなかったモノ。守りたいモノ。(6)
俺が今の高校を選んだ理由の一つに、従兄の存在が大きいかもしれない。
従兄の太山 柾人 が、剣道部のOBで、高校の話もよく聞いていた。今回、亮平の高校がくるというので、コーチも兼ねて応援に来ないか、と誘ったら、大喜びでやってきた。大学でも剣道部に入ってる柾人は、昔から亮平のことも知っていて、すごく評価している。
「要のこと、覚えてる?」
亮平達の高校が到着する前から、はりきって来た柾人に聞いてみた。
「……ああ、お前が中坊の頃、よく話してた子のことな」
俺は、この人にどんな話をしてたんだろう。今更ながら、照れくさい。
「今日、練習試合見にくるかもしれないんだ」
「へぇ」
「来たら、連れてきてくれない?」
「どんな子?俺、見たことないよね」
「この子」
そして、入学式に隠し撮りした要の写真を見せた。
「柊翔……」
なぜだか、ニヤニヤ笑ってる。
「……なんだよ」
「お前、どう見ても、これ隠し撮りだよな」
「……」
「もしかして、そういうこと?」
「な、何が?」
「まぁ、いいって。何があっても俺はお前の味方だ。お兄ちゃんに任せなさいっ!」
そういうと、顧問のところに挨拶に向かっていった。柾人を呼んだのは、間違いだったか?と、頭を抱えたくなった。
しばらくして、相手の高校のバスが到着したみたいだと、1年が報告している声が聞こえてきた。久しぶりに亮平と会う。雑誌などですでに何度も見てるのに、本人と再会するということに、少なからず緊張していた。
「お世話になりますっ!」
武道館の入口で、大きく挨拶する声が聞こえた。
ぞろぞろと入ってくる中、すぐに亮平のことはわかった。一人とびぬけて背が高くて、まっすぐに俺を睨みつけてきたから。俺も、負けずに睨み返していると、俺の方が顧問に呼ばれて、先に目線をはずした。
試合のほうは、さすが強豪校だけあって、うちの中堅まで、むこうの先鋒にやられてしまう。このまま、大将の亮平とやれるのか?と不安になった時、視線を感じて武道館の入口のほうを見た。
応援に来ていた何人かの女子たちの後ろに要がいるのは、すぐにわかった。がんばってここまで来てくれたことが嬉しくて、無意識に微笑んでいた。要もそれに気づいたのか、少し微笑むと、そのまま視線を相手の高校のほうに向けた。
俺は、失敗したと思った。
俺のことを見ていた亮平が、うかつにも要に微笑んだ俺を見ていたとは気づかなかったから。そして、その微笑みの先に要を見つけてしまった。
急に要の顔がひきつるのが見えた。
"あっ!"と思った瞬間、要の顔が見えなくなったかと思ったら、柾人の顔が見えた。思わず、立ち上がろうとした俺を、柾人が目線で制したかと思ったら、そのまま消えていった。要のことが心配だったけれど、試合は止められない。
実際、応援に来ている女子たちが、少しざわついただけで、試合場のほうでは、副将の祥吾が戦っている。
亮平のほうを見ると、要が消えたほうを見つめていた。
亮平……お前、まだ……。
祥吾は善戦して、なんとか相手の副将までは引きずり出した。
なんとか亮平と戦わなくては。ここまで来てくれた要のために、勝ちたい。ここまで勝ちに拘ったのは、初めてかもしれない。
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