44 / 122
4.守れなかったモノ。守りたいモノ。(10)
閉会式が終わり、着替え終えると、顧問のもとに集合していた俺たち。そこに、要の友達の女の子のほうが、俺のところに走って来た。
「こ、鴻上先輩」
「どうしたの?」
「獅子倉くんが……」
「要、まだ、戻ってないの?」
「は、はい。それで、ヤスくんがトイレ見に行ってくれたんですけど、どこにもいなくて」
「帰ったわけじゃなくて?」
「荷物置いてってるんです。それに、スマホも持ってってないし」
心配そうな顔で、俺に説明している彼女が、痛々しい。その様子に気が付いたのは、主将の潤。
「どうした」
「応援に来てくれた子が、戻ってきてないらしくて」
「そのうち、戻るんじゃないの?」
「いや……たぶん、決勝前からだよね?」
「そうです」
「え。もうだいぶ時間たってるじゃん」
館内の壁にかかってる時計で時間を確認する潤。
「ヤスくんが探し回ってくれてるんですけど、何かあったらと思うと心配で」
「わかった。俺も探すよ。きみは、武道館の入口で待ってて。誰か一か所にいてくれたほうがいいから」
顧問の話は続いていたけれど、俺は荷物を持って、要を探しに向かった。
俺の頭の中に浮かんだのは、あの時のこと。あの時みたいに、小さい子供じゃない。それでも、どうしたって、あの時の恐怖がはりついた要の顔がちらついてしまう。友達のヤスくんは、館内を見て回ったらしいので、俺は外に出た。大会が終わって、参加者や応援に来た人たちが続々と帰っていく。その流れの中、外にあるトイレの場所を探して歩いた。
……いない。
ここもだめ。
……要……どこだよ。
武道館からだいぶ離れた、少し隠れたところにあったトイレから出てきた時。
「柊翔!」
亮平の声が聞こえた。なんで、こんなところで?と思いながら、振り向くと。
「か、要!?」
要は亮平に抱きかかえられていた。青白い顔で、気を失ってるようだ。
「っ!?まさか、また、お前っ」
「俺じゃねぇ」
亮平の低い声は怒りに満ちていた。慌てて駆け寄り、抱えられた要を見る。見る限り、ケガはしていないようだったので、ホッとした。
「どういうことだよ」
亮平を睨みつけた。
「……要が拉致られてた」
「っ!?」
怒りで堅い表情の亮平からは、嘘や冗談でないことは明白。
「俺は呼び出されたんだよ。お前の名前で」
「え?」
「説明は後だ。とりあえず、要をちゃんと休ませたい。」
「……わかった」
「ここの武道館に救護室ってあるよな。とりあえず、そこに連れてく」
すぐにでも問い詰めたい気持ちだったけれど、要の心配のほうが勝って、武道館に戻ることにした。その途中、ヤスくんと主将の潤と合流し、一緒に救護室に向かった。
白いベッドに横たわる要を見ると、この前倒れたことを思いだしてしまう。要を残して、俺たちはいったん救護室の外に出た。大会の運営関係者も、ほとんど帰ってしまってるから、そう長くはいられない。
「で、君は、どうかかわってくるんだい?」
訝し気に亮平に問いかける潤。
「馳川は、俺の幼馴染」
「ふーん。それで」
「うちのほうの大会は先週終わってたから、偵察も兼ねて見に来たんだよ」
「で?」
「決勝が始まって少ししてから、知らないヤツが、柊翔が試合が終わったら話があるとかいうから、言われたところに行ったら、要が……」
顔を歪めるのを見て、俺の心臓はキュッと痛くなった。
「あいつが……何かする直前だったと思う。シャツも脱がされてて……ジーパン下げられてた……あいつ、スマホで撮影しようとしてた」
その場にいた全員が、ヒュッと息を飲み込んだ。そして、俺は、やっぱりあの時のことを思いだして、血の気が引いてくる。
「あいつって?」
一人比較的冷静だったのは潤。
「俺を呼び出したヤツ」
そいつを思い出したのか、ギリギリと歯を食いしばる亮平。
ともだちにシェアしよう!