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4.守れなかったモノ。守りたいモノ。(10)

 閉会式が終わり、着替え終えると、顧問のもとに集合していた俺たち。そこに、要の友達の女の子のほうが、俺のところに走って来た。 「こ、鴻上先輩」 「どうしたの?」 「獅子倉くんが……」 「要、まだ、戻ってないの?」 「は、はい。それで、ヤスくんがトイレ見に行ってくれたんですけど、どこにもいなくて」 「帰ったわけじゃなくて?」 「荷物置いてってるんです。それに、スマホも持ってってないし」  心配そうな顔で、俺に説明している彼女が、痛々しい。その様子に気が付いたのは、主将の潤。 「どうした」 「応援に来てくれた子が、戻ってきてないらしくて」 「そのうち、戻るんじゃないの?」 「いや……たぶん、決勝前からだよね?」 「そうです」 「え。もうだいぶ時間たってるじゃん」  館内の壁にかかってる時計で時間を確認する潤。 「ヤスくんが探し回ってくれてるんですけど、何かあったらと思うと心配で」 「わかった。俺も探すよ。きみは、武道館の入口で待ってて。誰か一か所にいてくれたほうがいいから」  顧問の話は続いていたけれど、俺は荷物を持って、要を探しに向かった。  俺の頭の中に浮かんだのは、あの時のこと。あの時みたいに、小さい子供じゃない。それでも、どうしたって、あの時の恐怖がはりついた要の顔がちらついてしまう。友達のヤスくんは、館内を見て回ったらしいので、俺は外に出た。大会が終わって、参加者や応援に来た人たちが続々と帰っていく。その流れの中、外にあるトイレの場所を探して歩いた。  ……いない。  ここもだめ。  ……要……どこだよ。  武道館からだいぶ離れた、少し隠れたところにあったトイレから出てきた時。 「柊翔!」  亮平の声が聞こえた。なんで、こんなところで?と思いながら、振り向くと。 「か、要!?」  要は亮平に抱きかかえられていた。青白い顔で、気を失ってるようだ。 「っ!?まさか、また、お前っ」 「俺じゃねぇ」  亮平の低い声は怒りに満ちていた。慌てて駆け寄り、抱えられた要を見る。見る限り、ケガはしていないようだったので、ホッとした。 「どういうことだよ」  亮平を睨みつけた。 「……要が拉致られてた」 「っ!?」  怒りで堅い表情の亮平からは、嘘や冗談でないことは明白。 「俺は呼び出されたんだよ。お前の名前で」 「え?」 「説明は後だ。とりあえず、要をちゃんと休ませたい。」 「……わかった」 「ここの武道館に救護室ってあるよな。とりあえず、そこに連れてく」  すぐにでも問い詰めたい気持ちだったけれど、要の心配のほうが勝って、武道館に戻ることにした。その途中、ヤスくんと主将の潤と合流し、一緒に救護室に向かった。  白いベッドに横たわる要を見ると、この前倒れたことを思いだしてしまう。要を残して、俺たちはいったん救護室の外に出た。大会の運営関係者も、ほとんど帰ってしまってるから、そう長くはいられない。 「で、君は、どうかかわってくるんだい?」  訝し気に亮平に問いかける潤。 「馳川は、俺の幼馴染」 「ふーん。それで」 「うちのほうの大会は先週終わってたから、偵察も兼ねて見に来たんだよ」 「で?」 「決勝が始まって少ししてから、知らないヤツが、柊翔が試合が終わったら話があるとかいうから、言われたところに行ったら、要が……」  顔を歪めるのを見て、俺の心臓はキュッと痛くなった。 「あいつが……何かする直前だったと思う。シャツも脱がされてて……ジーパン下げられてた……あいつ、スマホで撮影しようとしてた」  その場にいた全員が、ヒュッと息を飲み込んだ。そして、俺は、やっぱりあの時のことを思いだして、血の気が引いてくる。 「あいつって?」  一人比較的冷静だったのは潤。 「俺を呼び出したヤツ」  そいつを思い出したのか、ギリギリと歯を食いしばる亮平。

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