45 / 122

4.守れなかったモノ。守りたいモノ。(11)

「ヤスくん!」  息を弾ませながら、女の友達のほうが駆け寄ってきた。 「獅子倉くん、大丈夫?」  心配そうな彼女に、ヤスくんは、優しく答える。 「大丈夫。要の荷物は?」 「持ってきた」 「ありがとう。鴻上先輩、これ任せていいですか。俺たち、そろそろ帰るので」 「えっ!?獅子倉くんは?」 「大丈夫だよ。鴻上先輩が連れて帰ってくれる」 "そうですよね?"という顔で、俺を見つめる。 「もちろん。気を付けて帰れよ」  要が襲われかけたことなんて、女の子に知られたくないだろう。それを気遣ってくれたヤスくんに、言葉にはできない"ありがとう"を心の中でつぶやく。ヤスくんは、女の子の背中を押して離れていった。 「柊翔、うちの車、使え」  しばらくして、亮平が俺に視線を合わせずに言った。 「車?」 「ああ。今日は車で来たんだ。運転手、待たせてある。俺はこのまま電車で寮に戻るから」 「いや、でも、お前から、要に説明……」 「無理だっ」  亮平の悲痛な声が、静かな廊下に響く。 「無理なんだよ……要を見つけた時、あんなに怖がられるとは思わなかった……。俺の顔を見ただけで、あいつは気を失ったんだ……」 「亮平……」 「また、俺がいたら、あいつは……おかしくなっちまうかもしれない……」 「……お前ら、獅子倉と何が……」 「潤、悪い、それ以上は」  俺も強張った顔をしていたのだろう。潤は、驚いた顔をしたかと思ったら、ゆっくりと無言で頷いた。 「潤、他のやつらは?」 「もう、帰ってるだろ。残ってるのは、俺たちぐらいだ」 「そうか……亮平、悪いけど、車借りるな」 「入口に来るよう伝えておく。要のこと、よろしくな……」 「ああ」 「それと……優勝おめでとう。関東大会で会おうな」  そう言うと、強張った顔のままスマホを取り出して去っていった。  潤に荷物を任せて、俺は要を抱き起す。すっかり大きくなった要は、決して軽くはなかった。 「女の子だったら、お姫様抱っこできるんだろうけどな」  そう言って、潤が俺の背中に要を乗せる。 「……だな」  いや。潤がいなければ、お姫様抱っこしたいくらいだ。  武道館入口に、黒い車が一台待っていた。そこからスーツを着た男の人が降りてきた。 「鴻上さんですか?」 「はい」 「坊ちゃんから聞いております。後ろの座席にどうぞ」 「すみません」  要を起こさないように、ゆっくりと座らせる。 「柊翔、俺は電車のほうが早いから、電車で帰るわ。後で、連絡くれよ」 「潤、悪い」  俺たちは、帰途についた。静かな車内に、俺の肩に頭をのせて眠り続ける要。  要を守りたいのに。俺は、拳を強く握りしめた。

ともだちにシェアしよう!