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4.守れなかったモノ。守りたいモノ。(11)
「ヤスくん!」
息を弾ませながら、女の友達のほうが駆け寄ってきた。
「獅子倉くん、大丈夫?」
心配そうな彼女に、ヤスくんは、優しく答える。
「大丈夫。要の荷物は?」
「持ってきた」
「ありがとう。鴻上先輩、これ任せていいですか。俺たち、そろそろ帰るので」
「えっ!?獅子倉くんは?」
「大丈夫だよ。鴻上先輩が連れて帰ってくれる」
"そうですよね?"という顔で、俺を見つめる。
「もちろん。気を付けて帰れよ」
要が襲われかけたことなんて、女の子に知られたくないだろう。それを気遣ってくれたヤスくんに、言葉にはできない"ありがとう"を心の中でつぶやく。ヤスくんは、女の子の背中を押して離れていった。
「柊翔、うちの車、使え」
しばらくして、亮平が俺に視線を合わせずに言った。
「車?」
「ああ。今日は車で来たんだ。運転手、待たせてある。俺はこのまま電車で寮に戻るから」
「いや、でも、お前から、要に説明……」
「無理だっ」
亮平の悲痛な声が、静かな廊下に響く。
「無理なんだよ……要を見つけた時、あんなに怖がられるとは思わなかった……。俺の顔を見ただけで、あいつは気を失ったんだ……」
「亮平……」
「また、俺がいたら、あいつは……おかしくなっちまうかもしれない……」
「……お前ら、獅子倉と何が……」
「潤、悪い、それ以上は」
俺も強張った顔をしていたのだろう。潤は、驚いた顔をしたかと思ったら、ゆっくりと無言で頷いた。
「潤、他のやつらは?」
「もう、帰ってるだろ。残ってるのは、俺たちぐらいだ」
「そうか……亮平、悪いけど、車借りるな」
「入口に来るよう伝えておく。要のこと、よろしくな……」
「ああ」
「それと……優勝おめでとう。関東大会で会おうな」
そう言うと、強張った顔のままスマホを取り出して去っていった。
潤に荷物を任せて、俺は要を抱き起す。すっかり大きくなった要は、決して軽くはなかった。
「女の子だったら、お姫様抱っこできるんだろうけどな」
そう言って、潤が俺の背中に要を乗せる。
「……だな」
いや。潤がいなければ、お姫様抱っこしたいくらいだ。
武道館入口に、黒い車が一台待っていた。そこからスーツを着た男の人が降りてきた。
「鴻上さんですか?」
「はい」
「坊ちゃんから聞いております。後ろの座席にどうぞ」
「すみません」
要を起こさないように、ゆっくりと座らせる。
「柊翔、俺は電車のほうが早いから、電車で帰るわ。後で、連絡くれよ」
「潤、悪い」
俺たちは、帰途についた。静かな車内に、俺の肩に頭をのせて眠り続ける要。
要を守りたいのに。俺は、拳を強く握りしめた。
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