46 / 122
4.守れなかったモノ。守りたいモノ。(12)
***
試合を終えて、部員全員が集まっている。顧問から、今日の総評を聞いていると、私服の女子が鴻上の元に駆け寄って何か話している。驚いた顔をして、少し心配そうに彼女と話し続けている。
河合は、その姿を見て、苛立ちを隠せない。どんな相手でも親し気に話している姿を見てしまうと、ついついイラっとしてしまう。
そして、二人の漏れ聞こえる会話から、アイツが動いたんだということに思い至る。鴻上と主将の朝倉が、慌ただしく顧問に声をかけて離れていく。無意識に、口元が緩んでいるところを、手で隠す瞬間を、女子部の一宮に見られていた。
「それでは、これで解散。気を付けて帰れよ」
顧問のその言葉に、部員全員の返事が響き渡った後、三々五々にその場を離れていく。
河合も荷物を肩にかけて、一人、駅に向かい始めた時。
「河合くん」
「何?」
後ろから声をかけてきた一宮が、冷ややかな眼で見つめてきた。
「あなた、何か知ってるんじゃないの」
「何が」
「……遼子は素直に信じるかもしれないけど、私は、あなたのこと、それほど信用してないから」
「……ひどいなぁ」
クスッと笑ったその顔は、無邪気を装っていたけれど、一宮の瞳は冷たいまま。
「獅子倉くんが鴻上先輩に迫ってるみたいな話だったけど、今までの状況考えてみれば、鴻上先輩のほうが獅子倉くんのこと好きみたいじゃない」
ピクっと眉を動かす河合。
「確かに、絵面的には、河合くんのほうがいいかもしれないけどね」
クスッと笑う一宮。
「腐女子って言っても、私は、鴻上先輩が幸せなほうがいいと思ってるんで」
冷たい瞳は、ジッと河合を見つめる。
「遼子にも手をひかせるから。そのつもりで」
「お好きにどうぞ」
フッと笑って、一人駅に歩き出す。しかし、河合の顔は、笑っていない。
「鴻上先輩を幸せにできるのは、俺だけだ」
瞳には青い炎がチラチラと蠢いているようだった。
ともだちにシェアしよう!