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5.気づいてしまった気持ち(2)
すぐに、夕飯だと、おばさんに呼ばれた。やっぱり、一人で食べるより、人と一緒がいい。
「たくさん食べなさいねっ!要くん、細いんだから。おばさん、心配だわぁ~」
「は、はいっ」
けして食が細いわけじゃないけど……隣で食べてる柊翔の山盛りの茶碗を見ると、少しげんなり。
「なんだよ」
俺の視線に気づいたのか、訝し気に見る。
「いや、柊翔……さん……は、よく食べるな、と」
「プッ。無理すんな。柊翔でいいっての」
「そ、そっちのほうが無理だからっ!」
"ほら、これも食え"と、自分の皿の上の肉を、俺の皿にのせた。
「あ、ありがと……ございます……」
もらった肉を素直に食べる。
「はぁっ。いいわ~。やっぱり、弟、欲しかったよねぇ、柊翔」
「何言ってんの」
不機嫌そうに答える柊翔。
「俺も、柊翔さんみたいな兄さんがいたら、よかったです」
真面目におばさんに言ったのに、隣の柊翔は一層不機嫌になった。
「お前、肉、返せ」
な、なんでだよっ。
食事が終わるまで、ずっと不機嫌だった柊翔。そんなに俺が兄貴のように思うのが嫌なのかな、と思うと、ちょっと悲しくなる。おばさんの手伝いで、食器の片づけをしていると、おじさんが帰って来た。
「おおっ!要くん、大きくなったねぇ!」
「お、お久しぶりですっ」
おばさんがぽっちゃり肝っ玉母さんなら、おじさんはガッチリ体型の熱血親父。この二人から、こんなモデル体型の柊翔が育つとは、人間って不思議だ。
「で、柊翔、試合は」
「優勝」
「おおおおおおおおっ!」
「……うるせぇ」
ただでさえ、機嫌が悪いのに、おじさんの喜びの雄たけびで、余計に眉間のシワが増えたような……。
「俺、風呂入ってくる」
そう言って、部屋を出て行った。機嫌が悪そうな柊翔を、心配そうに見送っていると、おばさんがニコニコしながら言った。
「大丈夫。ああ見えて、けっこう機嫌いいのよ」
「え、そ、そうですか?」
「そうよ。家では、いっつも仏頂面で、あんまり話もしないもの」
「へぇ……」
いつも穏やかに笑ってるイメージだったので、ちょっと意外だった。
「男の子は、だんだんと親離れしていくというか……なかなか小さい頃みたいに甘えてくれないから、寂しいのよねぇ……」
「クスクスッ。柊翔さんが、甘えてるところとか、想像できないです」
「そうね。あんなデカイのが甘えてたら……不気味かしら」
「おばさん、ひどい。フフフ」
"さ、お父さんの夕飯出さなくちゃ"と言って、再びキッチンに入っていった。
俺は、おじさんの晩酌の相手をしながら、一緒にテレビを見る。こういう家族みたいな時間を過ごすのは、いつぶりだろう。そう思ったら、親父のことを思いだした。
「お、おじさん。うちの親父には」
「ああ、今日はうちに泊めるって話しておいたから心配ないよ」
「ありがとうございます」
家にいても、たまにしか顔を合わせることがない。だから、俺がいてもいなくても同じだろう。だからきっと。心配なんかしない。
……わかってても、少し寂しい。
「要、お前も風呂、入れ。着替え、置いとくから」
Tシャツにハーフパンツ姿の柊翔が、髪をタオルで拭きながら現れた。
「あ、はい。おじさん、お先にお風呂いただいちゃいますね」
「おう、ゆっくり入っていいからな」
……今日は、おじさんの言葉に甘えてしまおう。
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