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5.気づいてしまった気持ち(3)

 服を脱いで、鏡で自分の身体を確認してしまう。あの加洲高の美人に触られた感触を、思い出してしまい、鳥肌が立つ。結局、身体のどこもケガや痣などは見当たらない。実際、何かされたような違和感みたいなのもない。  そういえば、気を失う直前、アイツが現れたような……。  そこまで思い出して、急に恐怖感が戻って来た。  なんで、アイツが、あそこにいたんだ?  あの美人と一緒になって、俺のことを……?  そこまで考えてたら、膝に力が入らなくてしゃがみこんでしまった。 「要、着替え置いておく……うわっ!?」  俺が素っ裸でしゃがみこんでるところに、着替えを持ってきた柊翔がドアを開けながら入って来た。 「か、要、どうしたっ?」  裸の俺の肩に恐る恐る手を伸ばす柊翔。 「ご、ごめん。昼間のこと思い出したら……急に足に力が入らなくなって……」  そういいながら、涙が目に溜ってくるのがわかって、情けなくなってきた。 「大丈夫だから」  なんとか、涙をこらえながら見上げると、柊翔が息をのんだ。俺の顔って、そんなにひどい顔になってるのかな。慌てて、目をそらした。 「と、とりあえず、早く湯船につかれ。身体があったまれば、もう少し落ち着くだろ」  なんだか、落ち着かなげにしゃべったかと思ったら、さっさと脱衣所から出て行った。身体を洗い終えて、ゆっくり湯船につかる。再び、同じように、アイツのことが思い浮かんでくると、抱きかかえるように腕を掴んでいた手に力が入る。  それでも、さっきみたいに足に力が入らなくなるほどではなく、少しだけ冷静に思い返すことができそうだった。  どう考えても、あの美人と俺との接点が思い浮かばない。となると、後から現れたアイツとの絡みなのか、と考えてしまう。でも、アイツが美人を見る目は……今思うと、けして知り合いのような感じではなかった。むしろ……嫌悪?  ……あ、あれ?なんか変だ。しっくりこない。  そして、再び、アイツが近寄ってくるシーンを思い出してしまうと、熱い湯船にいるのに、身体に震えが走りそうになる。  ……だめだ。一人で考えると、恐怖しか湧いてこない。恐怖を振り払うために、頭まで思い切り湯船に潜ってから、風呂から出た。  ……そういえば、誰が俺を助けてくれたんだろう?  モヤモヤしながら、柊翔が持ってきてくれた着替えに袖を通す。今ではあまり身長差がないと思っていたのに、意外にだぶっとした感じになってしまった。やっぱり、鍛え方が違うからなのだろうか。  やっぱり、なんか運動したほうがいいかな。けして貧弱というほどではないはずなんだけれど、筋肉の付き方がな。ついつい、自分の腹筋や二の腕の筋肉を触って確認してしまう。 「お風呂、ありがとうございました」  リビングにちょこっと顔を出して、おじさんたちに声をかけた。 「あ、要くん、アイスあるから、これ柊翔にも持ってって」  そう言って、おばさんから渡されたのは、大き目なカップアイス。あ、俺、これのバニラ味、好きなんだよな。シャリシャリしてるし。思わず、にんまりしながら、柊翔の部屋に向かう。早く食べたくて、ノックもせずにドアを開けた。 「柊翔さ~ん、おばさんがアイス……あ」  柊翔は、スマホを持ちながら、ベッドに横になって眠っていた。それはそうだ。今日は一日中、試合だったんだもの。スースーと小さく呼吸が聞こえてくる。手に持っていたアイスを、机の上に置いて、ベッドの脇に座って、柊翔の寝顔を覗き込む。  いつも見るのは、大人っぽくて、かっこいい柊翔なのに、今、ここで眠ってる柊翔は、なんだか……かわいい。いつもよりも幼く感じる。そんなこと言ったら、怒られてしまうかもしれないけど。  今が、チャンス。思わず、静かに自分のスマホを鞄から取り出した。 「これは、貴重でしょ。ウフフ」  こっそり、近寄ってスマホのカメラで柊翔の寝顔を狙う。  "カシャッ"  う、うわ。思ったよりも、カメラのシャッター音が大きくて、柊翔が起きちゃうかも?と慌てた。  ……あ。全然、起きない?もう1枚、いいかな。

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