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5.気づいてしまった気持ち(4)
さっきより、もう少し近くで……あ、柊翔の睫毛、長っ……鼻筋も通ってて……やっぱ、男前だよな……。
"カシャッ"と、シャッター音と同時に、"バチッ"と、音が聞こえそうなくらいに、ばっちり目覚めた柊翔。やべっ、と急いで立ち上がろうとしたら、しっかり、Tシャツの裾、捕まえられました。
「何、やってんだよ……」
ああ、やっぱり、不機嫌?嫌ですよね、寝てるところ撮るとか、と、思いつつ、"エヘヘ"と、苦笑いしながら柊翔を見下ろすと。
……あ。あれ?これまた意外。
なぜだか、頬を赤くして照れてる?
「あー、うー、ごめんなさい……?」
怒ってなさそうだけど、ここは謝っておくべき?と思って、首を傾げながら謝った。
「……っ!!」
なぜ、身悶えているのでしょうか……。
"ぐぅ、なんで、ここで、そういうことをっ"
なんだかモゴモゴ言ってる柊翔の声がかすかに聞こえたけど、何を言ってるかまではわからなくて。
「あ、あの、おばさんからアイスもらったんだけど、もう溶けだしてるかも……」
Tシャツから手が離れている隙に、撮ってたことを誤魔化そうと、机のアイスを手に取った。やはり、すっかりカップは水滴まみれ。机にも水が溜りだしていた。
「冷蔵庫に戻っ」
「食う」
俺の手からアイスとスプーンをとると、ピリピリとカップの蓋を剥がした。
「……」
「……それ、ほとんど"飲む"じゃない?」
「……じゃあ、飲む」
中央に塊があるだけで、周りはすっかりバニラシェイク状態なんだけど。じゅるじゅるっと吸いこんでる柊翔。ここは、俺も同じことしないとダメ……かな。
まぁ、バニラシェイク好きだし。いつものシャリシャリ感が、半減しちゃっているのは残念だけど。とりあえず、塊のところだけ、サクサクとスプーンで削って口に運ぶ。うーん。やっぱ、これ旨いわ。あっという間に塊がなくなってしまう。
柊翔はすっかり食べ終わって(いや、飲み終わって)、俺が食べてるのを見ている。
「あ、ごめんなさい。さっさと飲んじゃいますね」
そう言って、カップを持ち上げて、じゅるじゅると飲み込んだ。
「くぅっ!やっぱ、旨……い?」
ぽーっとしながら俺を見つめている柊翔と目が合った。柊翔は急に立ち上がったかと思ったら、じっと俺の顔を見つめながら口元に手を伸ばしてきた。
「な、何っ?」
身をそらして、柊翔から離れようとしたけど、それよりも先に、親指が、唇の端をかすめる。
「……ついてる」
そして、ペロリと親指を舐めた。
な、何を、いきなりっ。!?
完全に固まってしまった俺を残して、空いたアイスのカップとスプーンを持って部屋を出て行った柊翔。耳が真っ赤になってた気がするのは、気のせいだろうか。いなくなった途端、ベッドに倒れ込んだ。
なんなんだ。柊翔がいつもと違う。
そして、俺も。なんで、こんなドキドキしてるんだ?
あんな嫌なことがあった後だっていうのに。
目を閉じて、こんな変な気持ちを落ち着かせようと、腕で目を隠した。柊翔はすぐに戻って来た。
「……寝てる?」
「……いいえ……」
寝たふりすればよかったかもしれないけど、素直に答えてしまう。
「ちょっと電話してくる。お前、ベッドで寝ちゃっていいから」
「えっ」
慌てて飛び起きた。
「俺が下で寝るから。気にすんな」
「でもっ」
「いいって」
スマホを持って出て行く柊翔は、少し、顔を強張らせていた気がする。
「いいって言われてもな……」
俺も泊まらせてもらってる身の上で、そこまで図々しくはできないと思った。
リビングをのぞくと、おじさんとおばさんが仲良くソファに座ってテレビを見ていた。なんだか楽しそうに話してる。
いいなぁ。うちだって、母さんが元気だったら……と、少し寂しくなる。
「あ、あら、要くん、どうかした?」
おばさんは、手にしていたグラスに、何か飲み物をいれるために立ち上がったのだろう。たまたま、のぞきこんでた俺の顔を見つけて、声をかけてくれた。
「す、すみません、お布団をいただけないかと……」
「なに、柊翔、やってくれなかったの?」
「い、いえ、今、電話中みたいで……」
「もう、しょうがないわねぇ……ちょっと待っててね」
和室の押入れから、お客さん用の布団一式を渡してもらうと、さっさと柊翔の部屋に引き上げた。柊翔の両親はラブラブだな。フフッと微笑みがこぼれた。
部屋に戻ってきても、まだ、柊翔は戻っていなかった。誰と話してるんだろう。
そういえば、今日のあのこと、まだ、ちゃんと柊翔に聞いていない。たぶん、俺が落ち着くまで聞かないでいてくれたのかもしれない。すっかり、柊翔やおじさん、おばさんのおかげで、嫌なコトが少しだけ薄らいだ気がする。ベッドの脇の、自分で敷いた布団の上に寝転がる。
……柊翔、早く戻ってこないかな。
いつも、自分の部屋で一人で寝てるのに、なぜだか今日は、一人が寂しく感じる。そして、少しずつ眠くなってきて。
瞼が……。
落ちそう……。
"カチャリ"
柊翔……戻ってきた……のかな……
「ったく、ベッドで寝ろって言ったのに。」
だって、俺はお邪魔してるんだし……
そう思っても声が出てこない。全然、身体に力が入らない。
ああ。もう、眠いんだ……。
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