51 / 122

5.気づいてしまった気持ち(5)

* * *  部屋に戻ってみれば、ベッドで寝ろって言ったのに、うちの母親からでももらってきたのか、客用の布団の上に横になっている。それも、掛け布団もかけないで。 「ったく、ベッドで寝ろって言ったのに」  すっかり寝入ってしまっているのか、俺が入って来たのに無反応。 「……どんだけ安心してんだよ?」  苦笑いしながら、要を抱きかかえて、ベッドに移した。掛け布団をかけてやると、"うーん"と言いながら、俺のいるほうに寝返りをうった。 ……かわいい。 ……やばい。  さっきの要じゃないけれど、写真を撮りたい。要を抱きかかえるときに机に置いたスマホを、もう一度手にとると、カメラモードに変えた。 「クスッ……寝てるほうが悪い。」  シャッターを押す。俺の腕もまんざらでもない。こうして、また、俺の宝物が増えた。  見覚えのない電話から着信があったのに気が付いたのは、風呂を出てからだった。このタイミングでかかってくるのは、亮平かもしれない、と、予想はしていた。折り返すべきか、無視するべきか、迷ってるうちに寝てしまったけど。折り返してみたら、案の定、亮平で、要のことが心配でかけてきたらしかった。 「今日は、うちに泊まってるから、心配するな」 『……違う意味で心配だけどな』 「お前に言われる筋合いはない」 『クククッ』  淡々と言い返してたつもりでも、ちょっとしたところで感情が出てしまう。お互いの気持ちは、いやというほどわかってるから。あの時から。 「要件はそれだけか」 『要から、話は聞けたのか』 「……いや」 『そうか』 「さっきだって、何かを思い出してしゃがみこんでたんだぞ。聞けるわけないだろっ」 『……』  素っ裸の要を見るのは小学生以来……すっかり、大人の身体になっていて。 『おい』 「っ!な、なんだよ」  危ない。つい、要のきれいな白い背中を思い出してドキドキしてた。 『何考えてたんだよ』  亮平のどす黒い嫉妬の声。昔と変わらない。 「別に」 『……話聞けたら、教えてくれ。こっちでも調べるから』 「……ああ」  亮平の両親は、それぞれ会社で社長をやってる金持ち。金でなんとかできることは、なんでもやる。要の事件の時も、そういう考えが端々に見えた。その影響が亮平にも、少なからずある。でも、今回は、それを利用させてもらう。亮平の罪悪感とともに。  それにしても。  目の前で寝ている要の寝顔は、今の俺には、目の毒でしかない。それでも、こうして安心して眠っている要を見ている時間は幸せを実感する。サラサラな茶色の前髪をあげて、広くて白いおでこにキスをした。 「これくらいは、いいだろ?」  それ以上は、しないから。キスの跡にコツンとおでこをあてた。 「……今日は、ゆっくり休めよ」  部屋の灯りを消して、俺も布団に潜り込んだ。夢で、要と会えることを願いながら。

ともだちにシェアしよう!