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5.気づいてしまった気持ち(9)
視線を合わせる余裕がないまま、麦茶に手を伸ばそうとしたとき。
「……お前を助け出したのは、亮平だ」
柊翔の口から飛び出したのは、アイツの名前だった。
「……な、何、言ってる……?」
時間が、止まったように感じた。それでも、血の気がどんどんと引いていくのがわかる。
「要……お前のこと抱えて連れてきたのは、亮平だった」
ゆっくりと、振り返ると、そこには切なそうな表情の柊翔。
なんで?なんで、あいつが、俺を助ける?
……わけわかんねぇ。
宙に浮いていた手のひらを、ギュッと握りしめる。怒りと羞恥、そして悲しみ。それを吐き出さないと、俺が壊れる。
「……けねぇ……」
「え?」
「そんなわけねぇっ!」
たぶん。
冷静に考えられたなら、あの時の、亮平の表情を思い出せば、助けてくれた、というのも頭の中では、理解できそうなのに。それを拒絶している俺の存在の方がでかすぎるんだ。せっかく止まってた涙が、戻ってくるのはあっという間だった。
「し、柊翔さん……な、なんで、そんなこと……言うんですか」
涙でにじむ世界は、何もかもを歪んで見せる。目の前の柊翔ですらも。
「そんなわけ、ないんだ」
そもそも、柊翔の顔なんて見られない。
「ありえない……」
俯いているせいで、ぽたぽたと、ジーパンの上に落ちていく。黒っぽい染みが、いくつもできていく。
「……ありえなっ」
「要……お前が嫌であろうとも、それが事実だ」
被せるように言った柊翔の言葉は、俺の涙腺を破壊して、俺の心も押しつぶそうとする。
「お前には、酷なのはわかってる。俺だって言いたくない。でも、嘘は・・・嘘はつきたくないんだ」
もう、思考がついていけない。涙が出すぎて、頭が痛くなってきた。柊翔が肩を揺らすけど、俺は何も反応できない。したくない。
「要、しっかりしろよっ」
柊翔が何か言ってる。何か言ってるけど、耳に入ってこない。
「要っ!逃げるなっ!」
柊翔……なんで、あんたが、俺を助けてくれなかったんだ……。さっきよりも、強く、柊翔は俺を抱きしめた。
苦しい。苦しい。苦しいよ。柊翔。
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