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5.気づいてしまった気持ち(10)
どれくらい時間がたっただろう。
すごく時間が過ぎたような気もするし、そんなにたいした時間じゃなかったのかもしれない。その間、ずっと、子供をあやすように、柊翔は俺の背中をなでていた。涙は枯れて、頭はぼうっとしたままだった。
「要」
柊翔の優しい声が、ゆっくりと耳をかすめた。
「お前を、拉致したヤツは、どんなヤツだった?」
頭に浮かんだのは亮平だったけれど、ゆっくりと頭を振る。それは違うだろうと。
そう。俺を騙したのは、加洲高のあいつだ。
「……加洲高のヤツ。女みたいにきれいな顔してた」
「知り合い?」
「違う……一回だけ、見かけたことがあるだけ……」
そうだ。一回だけ、ファストフードのお店で見かけただけ。話すらしたこともないのに。
「一回しか見かけてないのに、よく、そいつだってわかったな?」
「一回見れば、忘れない。それくらい……美人だったから」
「美人?」
「うん……たぶん、会えばわかる」
俺は、二度と会いたくはないけど。
「しかし……加洲高のやつだったら……また、狙われる可能性もあるな……」
小さくつぶやいてる柊翔の言葉は、俺をビビらせるには十分だった。あんな奴、見かけたらさっさと逃げる。
「しばらくは、一人で帰るなよ」
ようやく離れてくれたかと思ったら、心配そうに俺を見るけれど。
「……それとも、一緒に帰るか?」
「……っ!お、俺は、そんなに子供じゃないです」
「俺の方が心配なんだけどな……」
……素直になれない俺は、やっぱり子供なのだろう。
「ヤ、ヤスがいるから」
ヤスが佐合さんと帰る日は、一人になるけど。夕方の早い時間に、そうそう仕掛けてはこないと思うし。とりあえず、柊翔が心配しすぎないように、"ヤスがいる"ということにしておくほうが無難だ。
「そうか?」
少しだけ安心したような柊翔。それを見て、俺のほうも安心する。そして、今、自分が、どれだけ柊翔のそばにいたのかに気づいて、急いで離れた。
「……本当は、お前が剣道部に入ってくれれば、一緒にいられる時間が増えるんだけどな……」
無理なのをわかってて言ってるんだろうけど。試合を応援に行くだけで、勘弁してほしい。
家の前に車が止まる音がした。親父が帰って来た。
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