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5.気づいてしまった気持ち(11)
玄関の開く音がした。続いて、廊下を歩く音が聞こえる。
「おじさん、帰って来たみたいだね」
「……うん」
同じに家にいても、ほとんど顔を合わせることもない。家族というよりも、ただの同居人。家に母がいないと、俺たちは家族として成り立たない気がする。
「そろそろ、帰るな」
「あ、はい……」
「おじさんに、挨拶だけしてくるか」
二人で階段を降りると、リビングをのぞいた。久しぶりに見た親父は、ほんのり日に焼けていた。今日も接待ゴルフだったのか、ゴルフバックが、ソファのそばに置かれている。冷蔵庫から缶ビールを取り出して、そのまま口にしていた親父は、柊翔の顔を見て、驚いていた。
「お帰り」
"お帰り"なんて言うのは、いつぶりだろう。
「ああ、ただいま。きみは……もしかして、鴻上さんのとこの……?」
「はい。ご無沙汰してます」
ニッコリと笑う柊翔に、親父も笑顔で応えてる。
……親父が笑ってるの、久しぶりに見た気がする。
「いやぁ、親父さんに似てきたなぁ」
「ええっ、あんなおっさんと同じにしないでくださいよ」
アハハと、笑いあってる二人を、なんだか冷めた目で見てしまっている俺がいた。
「柊翔さん、そろそろ……」
「ああ、そうだな。じゃ、おじさん、失礼します」
「なんだ、もう帰るのか。久しぶりに会ったのに」
「また遊びに来ますんで」
「おお、また、おいで」
親父は、玄関先まで見送りに出てきた。
「そこまで、送ってくる」
「ああ。鴻上くん、お母さんにもよろしく言っといてくれ」
「はい。おやすみなさい」
俺と柊翔は、家を出た。しばらく、何も言わずに二人で歩いた。もう少しで大きな通りに出るところで、柊翔が立ち止まった。
「……要。何かあったら、なんでもいいから、言えよ。」
俺の顔をのぞきこみながら、"な?"と念を押す。
「は、はい……」
いつも優しい柊翔が、今日は一段と優しい気がして、なんだか照れくさい。スッと、頭の後ろに手が回された。
"え?"
柊翔の手に押されて、俺の額は、柊翔の肩の上にのせられた。
え?え?え?えぇぇぇ?
なぜだか、ドキドキしてきてる。お、俺、なんか変だ。
「俺は、要のこと……大事に思ってるから」
柊翔の声が耳元で響く。あんまりいい声だから、ゾクッとした。
「う、うん……?」
戸惑いながら答えた俺の頭を、ポンポンと軽く叩いたかと思ったら……そっと頭に……キスをしたっ!?
「じゃあ、また明日」
そう言うと、軽い足取りで走っていった。小さくなっていく柊翔の背中を、呆然と見つめ続ける俺。
え……と。
一連の流れは……どう理解したらいいんだろう?
俺にとっても、柊翔は大事な存在だけど、さっきのアレは同じ意味……だよな?
柊翔の姿が見えなくなっても、ずっと、ドキドキが止まらなかった。
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