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6.素直になりなよ(1)

 教室に入ると、佐合さんが心配そうな顔で、俺のそばまで駆け寄ってきた。 「獅子倉くん、もう、大丈夫?」  LIMEのメッセージから、たぶん、彼女は本当のことを知らないのが予想がついたから、曖昧に"大丈夫"と笑ってやりすごした。問題はヤスか。 「おい、獅子倉」  佐合さんとのやりとりを見ていた平沼が、同じように心配そうに近寄って来た。 「ん?」 「体調悪かったのか?」 「え、あ……まぁ……」 「無理して応援に来なくてもよかったのに。お前、いなくなったって、主将の朝倉先輩や、鴻上先輩が探し回ってたんだぞ」 「そ、そうなんだ」 「そうだよ。俺たちは先に帰れって言われたから、帰らせてもらったけどさ」  ……そうか。それじゃあ、その朝倉先輩は……知っているのか。  スーっと血の気が引いてきた。 「お、おい、大丈夫かよ。顔色悪いぞ」 「う、うん……ちょっと、保健室行ってくるわ……」  その場にいたたまれなくなって、保健室に逃げた。  保健室に入るのなんて、ほとんど初めてだ。保健の先生に、調子が悪いから、といって、ベッドにもぐらせてもらった。 「獅子倉くん……だっけ?先生、ちょっと職員室行ってくるから、お留守番よろしくね」  まるぽちゃのおばさん先生は、そう言うと保健室から出て行った。お留守番と言われても……ベッドの中に入ってしまえば……眠気がやってくるわけで……。  ……ん?  誰かが、俺のおでこに手を当ててる。冷たくて……気持ちいい。  ゆっくりと目を開けようとした時、次に、おでこに、触れたのはフニっとした感触……唇!? "!!"  こ、これは目を開けるべきなのか!?相手を確認すべきなんだろうけど、それも怖い気がして。でも、この匂いは。  ……柊翔のボディソープの匂いに似てる……  俺は、ゆっくりと目を開けた。  カラカラカラ……。  俺の目に入ったのは、保健室から出て行く、少し背の高い男子生徒の背中だった。でも、俺は知ってる。もう見慣れてるあの背中。  ……柊翔。  "はぁっ……"  いつの間にか、息を止めていたらしい。大きく息をはいた。柊翔だとわかって、ホッとしたと同時に、段々とドキドキしてきた。頬に手をやると、すごく火照っているのがわかる。  ……なんか、最近、俺、おかしいかも。  掛け布団を頭まで引き上げて潜り込む。そういえば。なぜ、柊翔がここに来たんだろう?もしかしたらヤスが連絡したのか。  ああ……ヤスとも顔を合わせなくちゃいけない。このまま早退してしまいたい気分になってきた。

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