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6.素直になりなよ(2)

「……くん」 「……くらくん」 「ほら、獅子倉くん、起きて」  "ん~?"  気が付いたら、すっかり熟睡していた俺。 「よく寝てたところ悪いんだけどね」  保健の先生は、体温計を渡しながら、俺の顔をじっと見る。 「顔色はもう大丈夫そうね。体温、計って、平熱だったら、もう授業に戻りなさい。もうすぐ3時限目始まるから」  そう言っている間に、体温計がピピピッと鳴る。 「……36度6分か。いつも、こんなもの?」 「たぶん……?」 「じゃあ、戻れるね?」  ……正直、戻りたくないけど。 「……はい」 「よし。それじゃあ、いい子にはこれをあげる」  保健の先生は白衣のポケットから、小さなキャラメルを1粒くれた。 「みんなには内緒ね。授業始まる前に食べちゃいなさい」  可愛らしくウィンクしたおばちゃん先生。 「いただきます」  俺は、目の前で、包み紙を向いて口に放り込む。 「じゃあ、頑張って」  ポンと俺の肩を叩いて、保健室から送り出してくれた。  俺は目立たないように、ひっそりと教室に戻った。ヤスと佐合さんは、大丈夫か、と心配してくれたけれど、もう大丈夫だと言って、授業を受けた。その後も、二人とも心配そうにされたけれど、俺のほうも、あんまり心配されても、居心地が悪くなるだけ。  やっぱり、早退しちゃったほうがよかったんじゃないか、と思い始めてしまう。 「要、今日は、一緒に帰ろう」  昼休み、ヤスが真剣な顔で俺に言った。 「……今日は、佐合さんが部活じゃなかったっけ?」 「ああ。でも、お前も一緒に帰るんだ」 「……いいよ。さっさと帰るから」 「ダメだ」  いつも、どこか冗談半分なヤスが、今日はどうにも真面目すぎて、気持ち悪い。 「……鴻上さんから、何か聞いてるの」  それしか思い浮かばない。俺は顔が強張るのを感じた。 「あの日、俺も一緒に探したんだよ」  予想はしていたことだった。 「それに。一応、鴻上先輩から聞いたから」  そうじゃなきゃ、言わないだろう。普段、先に帰っている俺に、"一緒に帰ろう"なんて。佐合さんは廊下で女子たちと話し込んでる。彼女がいなくて、よかった。そもそも教室でなんて、話したい内容でもない。 「俺は、要を狙ったヤツ、見た記憶はないんだけどな」 「……初めてアイツ見た時、お前も一緒だったけど……お前の座ってた場所からじゃ、見えなかったと思う」 「……鴻上先輩も心配してるからさ。とりあえず、しばらくは一緒に帰ろう」 「俺、女の子じゃねーんだけど」 「それでも、だよ」  眉間にシワを寄せて、俺を睨みつける。  クスッ。 「何、笑ってんだよ。俺は真剣だぞっ」 「ごめん、こんなにヤスがマジな顔してるの、初めて見たから、思わず笑っちゃったよ」 「失礼なヤツだなっ!」  "おりゃっ!"と、ヤスの右手が、俺の頭を軽くはたく。 「いってぇなぁっ」  そう言いながらも、ヤスの優しさに、顔はほころんでいた。

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