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6.素直になりなよ(7)

「あ、あれ?獅子倉君に自己紹介しなかったっけ?」  この人の驚いた顔に、見覚えがあるような気がした。  ……そうだ。  柊翔の同じように驚いた時の表情に似ているんだ。 「俺、太山 柾人(タヤマ マサト)。柊翔の従兄。柊翔の母ちゃんが、俺の親父の妹になるんだ。ちなみに、剣道部のOB。たまに練習にも来てたんだけど」  "獅子倉くんは見に来たことないから、知らないか。"と、苦笑いしている。 「だから。なんとなく、鴻上さんと似てるなぁ、と思ってました」  俺が素直に信じそうになっていた時。 「念のため、鴻上先輩に確認してもいいですか」  仏頂面のヤスが、スマホを取り出した。 「いいけど、もうバスに乗っちゃってるんじゃない?」 「要があんたの話を聞いていないんだったら、確認しとかないと」  そう言うと、俺と太山さんを並べて、スマホで写真を撮った。 「はい、送信♪」  送った途端に、返事が返ってきた。 『なんで、二人並んで撮ってるんだよ』 ……怒ってる顔文字付き。 「……この返事は、知り合いっていう反応なんだろうか」  ヤスが苦笑いしてると、俺のスマホに、今度は電話がかかってきた。 「はい」 『要?』 「あ、はい。あのっ」 『なんで柾人さんと写真撮ってんだよ』  ……なんだか拗ねたような声。小さいく"俺とも写真撮ったことないのに……"という声が聞こえた気がしたけど、そこは、あえてスルーして。 「あ、じゃあ、やっぱり、鴻上さんの従兄で合ってるんですね?」 『そうだけど』 「よかった……。ヤスと心配してたんです。突然、車に乗るように言われたものだから」 『……あ。あれ?俺、要に話しなかったっけ?』 「……聞いてません」 『悪い……言ったつもりになってた』  スマホ越しだけど、柊翔が"失敗した~!"という顔をしていそうで、思わず笑ってしまった。 「じゃあ、太山さんに素直に送ってもらうことにします。あ。明日もがんばってくださいね」 『ああ。明日は……絶対勝つから』 「……はい」  と、そこでヤスが俺からスマホを取り上げた。 「鴻上先輩~。要、今日、告白されてました~!」 「っ!?よ、余計なこと言うなよっ!」 『っ!!』 「じゃ、明日頑張ってくださいね~!」  そう言い終えたと思ったら、俺のスマホの電源を落とした。 「うぉぉっ!?おまっ、何やってんだよっ」 「きみ、やるねぇ~!」  ニヤニヤ笑ってる太山さんに、親指を立ててニカッと笑うヤス。 「ヤスッ、スマホ返せよっ」 「ダメ~ッ」 「なっ!?マジで、返してくれよ~っ!鴻上さんから後で何言われるか……こ、怖すぎるっ!」  俺が半泣き状態になってるというのに、二人は楽しそうに、駐車場のほうに歩いていくのを、俺は小走りで追いかけた。 * * *  走り去っていく要を、遠くから見つめる2人。  "チッ。やっぱ、ダメか。"  "悠ちゃんとヤれると思ったのに"  暗闇の中に、奴らは消えていく。

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