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6.素直になりなよ(11)
俺たちは、今日も剣道部の集団の近くの席に座った。太山さんが来たからか、全員が太山さんに向かって挨拶をするから、隣にいた俺は恥ずかして小さくなっていた。
「獅子倉」
三年生らしき男の先輩が、俺の名前を呼んだ。
「は、はい?」
一重の目が鋭く、大柄な体形が、俺に恐怖心を起こさせる。たぶん、彼なりに優しい声で俺の名前を呼んだのかもしれないが、恐怖心のおかげで、そんな声ですら、怖く感じてしまう。
「鴻上が下にいるから、声かけてきてやってくれないか。」
上から見下ろされてる感がハンパなくて、ちょっと足に震えがきてる。名前も知らない先輩は、俺がビビってることに気づいていないみたいで。
「おい、聞いてんのか?」
……怖い。
「朝倉、獅子倉くん、ビビってるから」
後輩たちに話しかけられていた太山さんが、苦笑いしながら、先輩に声をかけた。
「え。俺って、怖い?」
一重の目を大きく見開く先輩。
「す、すみません……」
「お兄ちゃん、獅子倉くん、いじめてどうすんのよ」
あ。今度は、違う意味で怖いお姉さんが登場してきた。
「いじめてねぇよ。いじめてたのは、お前らのほうだろ」
冷たい眼差しで見つめている相手は。一時期、しばらく俺と柊翔が一緒にいると邪魔してきてた、女子の剣道部の朝倉先輩。
「もう、いじめてないし」
ふんっ!と顔を背けている朝倉先輩は、隣にいた一宮先輩に"ねぇ?"と、顔を見合わせている。二人揃うと、やっぱり綺麗だな、と思う。意地悪だけど。
「獅子倉くん。一緒に、鴻上先輩のとこ、行こう」
そう言って、俺の腕をとったのは、一宮先輩。チラッと後ろを見たかと思ったら、かなり強引に俺を観覧席から連れ出した。
「え、えっと。い、一宮先輩?」
「あら。私の名前、知ってたの?」
「あ、ええ、まぁ……」
そりゃ、あれだけ意地悪されれば、嫌でも顔も名前も覚えてしまいますよ。
「こうやって見ると、獅子倉くんも、いい男よね」
佐合さんよりは、少し大きい感じの一宮先輩を見下ろしていると、
「遥、浮気は許さないわよ」
後ろから俺とさほど身長差のない朝倉先輩が、一宮先輩を見つめてる。
「う、浮気?」
「獅子倉くん、遥は、私のだから。相手にしないでね」
ニッコリ笑う朝倉先輩……いや、目は笑っていなかった。
「もう、揶揄って楽しんでるのに。邪魔しないでよ」
「ダメ。私のほうが我慢できないから」
そう言うと、空いている俺の腕の方に、朝倉先輩が腕を回すと、俺は捕まった宇宙人みたいになっていた。
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