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6.素直になりなよ(12)

 試合場の入口に、柊翔はいた。目を閉じて、集中しているようで、このタイミングで俺が声をかけていいんだろうか、と迷っていると。 「鴻上せんぱ~いっ!!」  大きな声で名前を呼んだのは、一宮先輩。柊翔が、ふっとこちらを見た時には、二人にひきずられるように柊翔の目の前に連れてこられていた。 「なんだ。三人そろって。というか、一宮、朝倉、お前ら、いつから要と仲良くなったんだよ」  そう言いながら、胡散臭そうな顔で、二人を見比べている。 「えっと~。今日?」  かわい子ぶってる一宮先輩を、冷ややかな眼で見ている柊翔。 「お前らは信用できん」 「え~っ!先輩がそんなこと言うなら、要くん、私の彼氏にしちゃおうかなぁ~♪」 「なっ!?」 「え~っ!じゃあ、私も要くんの彼女になりたいな~っ」  後の方は、明らかに棒読みな朝倉先輩……。 「ま、まさか、告白されたのって……」  真っ青な顔になっている柊翔は、なかなか見ものだったのだけれど。 「そんなわけ、あるわけないでしょう。冷静に考えてください。鴻上さん」  思わず、苦笑い。 「ぷぷぷ。鴻上先輩がこんなに焦るなんて」  一宮先輩の人の悪そうな顔は、綺麗な分、ちょっと怖い。 「じゃあ、邪魔者ははずしますんで」  そして、朝倉先輩と腕を組んで立ち去る一宮先輩。後ろ姿は、本当に恋人同士みたいで……いや、恋人同士なんだよな……。 「要」  二人を見送っていた俺に、柊翔が声をかけてきた。 「あ、はい」  振り返ったところで、柊翔が抱きしめてきた。 「え、えっと。鴻上さん?」 「少しだけ」 「……」 「少しだけ、パワーくれ」 「……は、はい」  ゆっくりと、手を背中にまわして、ポンポンと軽く叩く。この前は、柊翔が俺にしてくれたから。 「要……誰に告白されたんだ?」 「……今、それ聞きますか」 「気になって、試合に集中できそうもない」  相手を知ったら、違う意味で集中できないような気がする。 「……勝ったら。勝ったら教えます」 「なんだよそれ」  俺から離れて、顔を上げた柊翔は、いつものクールで大人な感じではなく、なんだか子供っぽく、拗ねた顔をしている。 「……柊翔さん……勝ってください」  そう。今は、それしか言えない。余計なことを考えさせたくない。 「ああ……約束だしな」  俺の真面目な声が通じたのか、ようやく、いつもの柊翔の顔になった。 「それじゃ、剣道部の人たちと一緒に見てますから」 「ああ」  片手を上げて、試合場に入っていく。  勝ってください。  勝ってください。  勝ってくださいっ!  あなたが勝ってくれれば……俺は……前に進めそうな気がするんです。  ギュッと拳を握る。  柊翔が入っていったドアをじっと見つめながら、彼の勝利を祈る。  ふぅっ、と息をはいて、観覧席に戻ろうとした時。

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