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6.素直になりなよ(19)
なぜか運転席にいるのは、柊翔で、大きな手で俺の頬を撫でていた。ぼーっとした頭で、今の状況を把握できないでいると、何も言わずにじっと、俺を見つめている。
「しゅ……うと?」
「大丈夫か?」
「あ、はい……」
あんまり真面目な顔で、見つめられるから、なんだかドキドキしてきた。お、俺、なんで、柊翔にドキドキしてるんだろ。
「そ、そういえば、もう試合は終わったんですか?」
柊翔の指が、俺の唇のあたりを撫でると、自分が叩かれたわけでもないのに、少し痛そうな顔をした。
「……ああ。負けちゃったよ」
「そうですか……」
ああ、決勝戦も見たかったな……。
「でも。亮平には勝てたから」
「……はい」
観覧席でも見ていたのに、柊翔から直接聞くと、実感が湧いてくる。
「見てましたから」
「うん」
「ちゃんと、見てましたから」
涙がこみ上げてきそうなのを、ぐっとこらえた。もう、涙なんか出ないと思ってたのに。
"コンコン"
運転席側の窓を叩く人影。
"チッ"と舌打ちをしたのは、柊翔で。
『おーい。いいかげん、出てこいや』
太山さんが、苦笑いしながら、立っていた。
何かブツブツ言っている柊翔の声は聞き取ることはできず、待ちくたびれた太山さんは、さっさとドアを開けた。
「お前は、あっちのバスじゃねぇのかよ」
「俺も柾人さんの車で帰るよ」
「なんだよ、それ。おじさんたちも来てたんじゃねぇの?」
「あの二人は、とっくに帰ったよ」
あ、おじさんたちも来てたのか……挨拶すらしなかった……。
「"久しぶりに二人でドライブして帰るんだ"とか言ってたから、俺は邪魔者なんだよ」
「なんだよ、こっちだって、お前は邪魔者なんだけどなぁ。ねぇ、要くん?」
……ん?いつの間に、"要くん"になったんだろう……?
「なっ!?柾人さんっ!あんたまでっ!?」
なぜか慌てだす柊翔を、面白そうに見下ろしてる太山さん。
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