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6.素直になりなよ(20)
「そんなことより」
"そんなことって、なんだよ"と、少し拗ねた顔をしている柊翔が、なんだかカワイイと思っていたら、太山さんが、爆弾を落とした。
「要くん……馳川くんが、話があるみたいだけど」
広い駐車場の少し離れたところに、黒い車が止まっていた。
そこに、車に寄りかかりながら立っている亮平。じっと俺を見つめている。
「……はい」
リクライニングを元に戻して、車を降りようとした時、柊翔に肩を掴まれた。
「要……」
「柊翔さん……一緒に来てもらえますか」
一人で亮平と向き合える自信がなかった。せっかく柊翔が勝ってくれて、俺にパワーをくれたはずのに、実際の俺は、全然ヘタレだ。
「……ああ」
ゆっくりと、亮平の元へ歩く俺。その後を、柊翔がついてくる。
目の前の亮平は、高校の制服を着ていた。きちんとした格好をしている亮平は、普通に見れば、ただの高校生なんだけれど。背が高くて、俺のことを見下ろしてくるから、やっぱり、少し怖かった。
「要……身体、大丈夫か?」
……!?
心配そうな顔の亮平が、俺に近寄ろうとする。思わず、俺は、一歩下がってしまう。それに気づくと、すぐ、辛そうな顔をする。まるで、俺が亮平を傷つけているかのように。
「……なんで」
「え?」
「なんで、あなたがそんなこと言うんですか」
今日は一度も亮平とは会っていない。姿を試合場で見ていただけなのに。
……まさか、亮平が関係してるのか……?
「それは……」
ふっ、と気まずそうに視線をそらす亮平。
「それは、私が報告したからですよ」
黒い車の運転席から出てきたのは、さっき助けてくれた黒いスーツの人たちの中で、リーダー格だった人が、亮平のそばに立つ。
「……あなたは、こいつの知り合いだったんですか」
助けてもらったのはありがたいけど、亮平の関係者だとわかると、素直に感謝できない俺。思わず、顔が歪んでしまうから、亮平に見られたくなくて、俯いてしまう。
「亮平さんに頼ま」
「言うなっ。」
不機嫌そうな声で、亮平が男の人の言葉を遮った。
「なんで……俺なんだよ……」
地面を睨みながら、出てくるのはこんな言葉しかない。
「もう……放っておけよ」
「……」
「ほっといてくれよ……」
地面に、ポツリポツリと黒いシミができる。
ああ、またかよ。俺、情けねぇ……。
「放っておけるわけないだろ。」
亮平の悲しそうな声。
「こんなに好きなのに。たとえ、お前に嫌われててもいい。俺は、お前が好きだし、俺にできることだったら、なんだってするっ。」
絞り出すような声に、俺の心臓はギュッと締め付けられた。
「要……もしかして告白って亮平のことか」
後ろにいた柊翔が、俺の肩を掴んだ。小さく頷くと、俺の前に立って亮平の視線を遮った。
「……そちらの方が、要を助けてくれたことには感謝します。でも。もう、やめてください。要のことは、俺が守りますから」
顔をあげると、柊翔の大きな背中が、俺の目の前にあった。
「……そうは言ったって、実際、お前は守れなかったじゃないかっ」
鋭い声が、柊翔に放たれる。
「っ!」
垂れ下がった両手を強く握りしめるから、彼の指が、段々と白くなっていく。
「柊翔が悪いんじゃないっ」
柊翔の前に出て、亮平の目を見て、俺は声をあげていた。
「お、俺が、油断したから……だから、柊翔が悪いわけじゃない」
あんなに怖いと思ってた亮平の目を、ちゃんと見て、思ってることを言葉にした。身体は、少しだけ震えてる気がするけど、柊翔がいてくれるから。柊翔がいるから、頑張れる。
「要……」
悲し気な亮平の声に、少しだけ、ほんの少しだけ、心が揺らぎそうになるけど。
「さ、さっきは助けてくださって、ありがとうございました。で、でも、もう大丈夫ですっ」
軽く会釈をすると、俺は柊翔の手を握って、太山さんの車へと、走っていった。柊翔が、一緒に走りながら、すごく悔しそうな顔をしていたなんて、気づかずに。
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