81 / 122
7.邪魔者はとことん邪魔をする(2)
柊翔の隣には、あの一重の大柄な人が、ひょいと片手を上げたかと思ったら、すぐに机の上の問題集のほうに目を向けていた。
「こ、こんにちは」
「おう」
「あれ。要に紹介してたっけ?」
「あ。いやぁ、ちゃんとは……」
「こいつ、剣道部の主将の朝倉。ほら、女子剣道部の朝倉の兄貴」
お、おおお。
この威圧感……相通ずるものがある……。
「それより、ヤスくんたちも、さっさと席ついて勉強しな」
「あ、はい」
コソコソと席について教科書を取り出す俺たち。
「こ、鴻上さんって、頭もいいの?」
今更なことを、こっそり本人に聞く俺。
「どうかなぁ……」
苦笑いしてる柊翔。
「……毎回、学年十位以内入るやつは、バカではないぞ」
朝倉先輩は顔をあげずに、ぼそりとつぶやく。
……知らなかった。
比較的、進学校といわれるうちの学校で、部活でも活躍してるのに、頭もいいなんて。そして、このイケメン。モテないはずがない。
そのわりに、現状、誰も近寄ってこないのは、おそらく。いや、確実に、朝倉先輩の、"近寄ってくんな、ごるぁっ!"オーラのせいに違いない。俺だって、柊翔がいなければ、ここまで接近できる自信はない。
カリカリカリ……
図書室で小さく聞こえてくるいくつもの鉛筆を走らせる音。そして、ヒソヒソと交わされる話し声。相変わらず女子たちの視線の強さが、ひしひしと感じるけれど、まったく気にせず勉強に集中している三人(俺とヤスを除く)には、脱帽。
全然集中できないでいたから、気分転換も兼ねて、本棚のほうに参考になりそうな本がないか探しに向かう。少し離れただけで、こんなに違うのか、と思うくらい、視線の圧力ってあるんだ……と、思いながら、本棚の本を眺めていると。
『ねぇ、河合くんとはどうなったの?』
『え。知らない』
『だって、最近、一緒にいるとこ、あんまり見ないじゃない』
『あの似た子のほうが本命?』
『やだぁ、絶対、河合くんのほうがお似合いなのにぃ!』
『私もそう思うけどっ』
『ていうか、あの女子、誰よ』
『あの子の友達っぽいけど。なんか、ずうずうしいわよね』
ヒソヒソ声のつもりでも、すっかり俺には聞こえているわけで。"河合くん"って、あの副将の人のこと……だよな。
ともだちにシェアしよう!