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7.邪魔者はとことん邪魔をする(9)
* * *
ゾクッ
なんとなく背中に寒気を感じて、ふっと振り向く。後ろの方で仲良さそうに話している副将さんと、その従姉の百合さん。気のせいかな。
「要。急げ、電車に乗り遅れる」
先を歩く柊翔が、俺の名前を呼ぶ。
「は、はいっ」
昨日、おばさんが何度も柊翔の部屋に来るものだから、最後には珍しく柊翔がキレていた。
「これじゃ落ち着いて勉強ができないっ!」
というので、今日は、俺の家に行くことになった。
確かに、親父は相変わらず帰りが遅いし、俺たちだけで、静かなのは確か。だけど、最近、俺自身がおかしいから、二人っきりになるのは、少し不安だった。
でも、さっきの綺麗な百合さんを見て、ドキドキしてる自分に気が付いて、俺、大丈夫じゃない?って思った。きっと、柊翔のことだって、たまたまだったのかもって。
それなのに、電車の中で隣に立っている柊翔を見ると、大人っぽくて、やっぱり憧れる。教科書を開くと、目の前にいくつもの文字が目に入ってくるのに、なぜだろう。そこにいるだけなのに、すごく存在を意識してしまって、文字が頭の中に入ってこない。大丈夫って思ったのに。
……柊翔だから?
「要?」
名前を呼ばれて、ハッとする。
「は、はい」
「大丈夫か?体調悪いのか?」
心配そうに見る柊翔の目を、見られない。
「だ、大丈夫ですっ」
ページをペラペラとめくるけど……ああ、こんなんじゃ勉強にならない。
「はぁっ……」
無意識にため息が出てしまう。
「……やっぱり、どこか調子悪いのか?」
そう言って、俺のおでこを触るから。
「やっぱ、熱あるんじゃないか」
熱、出てきたんです。柊翔が覗き込んでくるから。そんなに近くに顔をよせないでください。なぜだか、目まで潤んできた。ヤバイ。
「っ!?な、マジで大丈夫かよ」
俺の顔を見て慌てだした柊翔まで、顔を赤くしだした。
「ご、ごめんなさいっ。ホント、大丈夫ですから」
「で、でもっ」
これ以上、心配かけちゃダメだ。
「大丈夫ですって」
ニッコリ笑って、少しだけ身体を離した。それに気が付いたのか、柊翔が訝し気に俺を見てる。
だから……見ないでください。
誰もいない家だけど、いつものように「ただいま」と声に出す。
「おかえり~」
へ?
後ろから、柊翔がニコニコしながら立っている。
「ん?だって、寂しいだろ?返事がないと」
そうだけど。
「うちでは聞きたくもないけどな。あのオバサンの声。聞き飽きた」
げっそり、という顔をする柊翔が面白くて、つい吹き出してしまう。
「やっと笑ったな」
そう言って俺の頭を撫でる。
「あっ」
変に自分が意識しすぎてて、帰りの電車の間、ずっと俯いてた。それを柊翔が気にしてるかもしれないとは思ったけど、自分ではどうすることもできなくて。
「す、すみません……」
「……気にするな」
「お邪魔しま~す」と言って、先に靴をぬいで階段を上りだす柊翔。俺も慌てて階段をのぼった。
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