88 / 122

7.邪魔者はとことん邪魔をする(9)

* * *  ゾクッ  なんとなく背中に寒気を感じて、ふっと振り向く。後ろの方で仲良さそうに話している副将さんと、その従姉の百合さん。気のせいかな。 「要。急げ、電車に乗り遅れる」  先を歩く柊翔が、俺の名前を呼ぶ。 「は、はいっ」  昨日、おばさんが何度も柊翔の部屋に来るものだから、最後には珍しく柊翔がキレていた。 「これじゃ落ち着いて勉強ができないっ!」  というので、今日は、俺の家に行くことになった。  確かに、親父は相変わらず帰りが遅いし、俺たちだけで、静かなのは確か。だけど、最近、俺自身がおかしいから、二人っきりになるのは、少し不安だった。  でも、さっきの綺麗な百合さんを見て、ドキドキしてる自分に気が付いて、俺、大丈夫じゃない?って思った。きっと、柊翔のことだって、たまたまだったのかもって。  それなのに、電車の中で隣に立っている柊翔を見ると、大人っぽくて、やっぱり憧れる。教科書を開くと、目の前にいくつもの文字が目に入ってくるのに、なぜだろう。そこにいるだけなのに、すごく存在を意識してしまって、文字が頭の中に入ってこない。大丈夫って思ったのに。  ……柊翔だから? 「要?」  名前を呼ばれて、ハッとする。 「は、はい」 「大丈夫か?体調悪いのか?」  心配そうに見る柊翔の目を、見られない。 「だ、大丈夫ですっ」  ページをペラペラとめくるけど……ああ、こんなんじゃ勉強にならない。 「はぁっ……」  無意識にため息が出てしまう。 「……やっぱり、どこか調子悪いのか?」  そう言って、俺のおでこを触るから。 「やっぱ、熱あるんじゃないか」  熱、出てきたんです。柊翔が覗き込んでくるから。そんなに近くに顔をよせないでください。なぜだか、目まで潤んできた。ヤバイ。 「っ!?な、マジで大丈夫かよ」  俺の顔を見て慌てだした柊翔まで、顔を赤くしだした。 「ご、ごめんなさいっ。ホント、大丈夫ですから」 「で、でもっ」  これ以上、心配かけちゃダメだ。 「大丈夫ですって」  ニッコリ笑って、少しだけ身体を離した。それに気が付いたのか、柊翔が訝し気に俺を見てる。  だから……見ないでください。  誰もいない家だけど、いつものように「ただいま」と声に出す。 「おかえり~」  へ?  後ろから、柊翔がニコニコしながら立っている。 「ん?だって、寂しいだろ?返事がないと」  そうだけど。 「うちでは聞きたくもないけどな。あのオバサンの声。聞き飽きた」  げっそり、という顔をする柊翔が面白くて、つい吹き出してしまう。 「やっと笑ったな」  そう言って俺の頭を撫でる。 「あっ」  変に自分が意識しすぎてて、帰りの電車の間、ずっと俯いてた。それを柊翔が気にしてるかもしれないとは思ったけど、自分ではどうすることもできなくて。 「す、すみません……」 「……気にするな」 「お邪魔しま~す」と言って、先に靴をぬいで階段を上りだす柊翔。俺も慌てて階段をのぼった。

ともだちにシェアしよう!