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7.邪魔者はとことん邪魔をする(11)
朝の通学電車は、俺にとっては天国。いや、要にとっては地獄かもしれない。電車が入ってくるまで、後ろに並ぶ女子たちを見ては真っ青になってる。でも、そんな要を守るっていうのを言い訳にして、こんなにギュッと抱きしめられる幸せ。
……要、ごめんよ。
試験が終わるまで……このまま、俺の腕の中にいてくれよ。
「し、柊翔さん、ダイジョウ……ブ……ですか?」
苦しそうに声を出す要。
「ん?気にするな。どうせ、あと少しだろ?」
ちょっとだけ顔を傾ければ、要の唇に触れそうになる。こんなギリギリの距離……自分の理性もギリギリになる。その上、要の耳が真っ赤になっているのを見れば。それを咥えたくなる衝動。
……俺、どんだけ要が好きなんだろう。
チラリと見ると、俺と目線を合わせないように、電車の窓のほうを見てる。
ああ、耳元で囁きたい。『好きだ』って。
結局は、そんな勇気はなくて、ただ要を抱きしめてるだけ。そんな時間も、あっという間に消えていくのは、駅に止まるたびに女子たちが降りていくから。特に、あと一駅というところで一気に降りていく。
残念、と思いながら、腕を離すと、要の存在感がなくなって寂しくなる。駅に着いて学校まで行く道、くだらないことを話していても、その時間が貴重で、隣を歩く要を意識せずにはいられない。
「鴻上先輩っ!」
後ろから声をかけて駆け寄ってきた祥吾が、俺の右腕に腕をからめてきた。
「よ。おはよう」
「おはようございますっ♪」
「朝から元気だな」
「へへへ。」
こいつの顔を見ると、あの百合という女の子を思い出して、少しだけ、嫌だな、と思ってしまう。彼女が要を狙っていそうで。
気になって左側を歩く要を見ると、いつも通りにニコニコしてる。
「鴻上さんは、男子にもモテモテですね。いいなぁ」
……俺がモテたいのは、お前だけなんだけどな。
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