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7.邪魔者はとことん邪魔をする(13)
「ん~?いいの、いいの。私、甘いの食べようかな~」
「いや、でもっ」
「私とデートするの嫌?」
うるうるした瞳で見上げられて、すっぱり断れるほど、俺は強くなくて、結局、彼女に押し切られて、一緒に食事をするはめになる。
「獅子倉くんは、どこに住んでるの?」
「え、A市ですけど」
「電車でもけっこうかかるんじゃないの?」
「そうですね。でも慣れてきました」
「そっか~」
会話の間に、豆乳のケーキを小さな口元に運んでいくのに目が離せない。この人は、わざとなんじゃないかって思うくらい、色気のある食べ方をする。唇をじっと見つめてる俺に、クスッと笑う百合さん。それに気づいて、恥ずかしくなる。
「す、すみませんっ」
慌てて、目をそらして、アイスコーヒーをストローで思い切りすすりだす。
「獅子倉くんてば……」
身体を前に乗り出して、俺の目を見る。
「えっち」
「っ!?」
なんで、この人は、こんなに色っぽく笑うんだろう。
「ねぇ、獅子倉くん」
「……は、はい」
彼女の声を聞くたびに、ドキドキしてしまう自分が、なんだか恥ずかしくて、ひたすらポテトを口に運ぶ。
「彼女いるの?」
「ゲホッ!!……い、いませんよっ!」
「ふーん」
フォークを口に入れたまま、じっと見つめられて、思わず目をそらす。
「じゃあ、好きな人は?」
ドキッとした。
今まで彼女を見てきて感じたものとは違う。彼女の声の温度が、一瞬、ヒュッと落ちたような気がした。そして、俺自身が、そのことを考えたくなかったせいかもしれない。
「い、いません……」
強く否定するところなのに、否定したくない俺。頭の中に、浮かんだのは、柊翔の顔だったから。
「だったら、私と付き合おうか?」
へ?
「ん?だめ?」
「い、いや、あの、俺、百合さんのこと、よく知らないし」
「私も獅子倉くんのこと知らないよ」
「でも……」
「だったら、これから知ればいいじゃない?」
首を傾げながら、"ね?"と促す百合さん。
「……すみません。俺、そういうのダメっす」
不器用かもしれないけど。好きだから付き合いたいって思えるんじゃないかって。"付き合ってるうちに好きになる"かもしれないけど、なんか違うって思う。好きにならない可能性だって、ある。なんとなく、百合さんの顔を見られなくて、俯いていると。
「プッ。」
……笑われた?
そーっと顔をあげると、面白そうに俺の顔を見てる。
「獅子倉くんって、マジメー♪」
「そ、そんなことないっす」
「んー、だって、大概の男の子は、私と付き合いたいって言うのに」
……そ、それは、それは。百合さんって、かなりモテるんだろうな、とは思ってたけど。
「でも~」
じーっと見つめてくる百合さんは……なんだか獲物を狙うネコ科の動物みたい。
「私は獅子倉くんのこと、気に行っちゃった♪」
"ニッコリ"と、まさに音がしそうなほどの笑顔を向けられて、俺のほうは、ただ顔が強張るばかり。
「え、あ、えとっ」
何か言わなきゃ、と思っているうちに、百合さんのスマホが鳴った。
「あー、私、そろそろ帰るね♪あ、それと」
かわいい手帳のメモに、すらすらと何かを書いて俺の目の前に置く。
「私の連絡先。後でメールちょうだい?あ、LIMEでもいいけど」
そういうと、「ばいば~い!」と言って、颯爽と帰っていった。
「な、なんなんだ、あの人……」
彼女を見送って、ようやく身体の力が抜けた。
……本当に、なんなんだ。
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