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7.邪魔者はとことん邪魔をする(14)
百合さんからもらったメモは、なんとなく捨てられずに、財布の中に入ってる。かといって、スマホに登録するのも、なぜだか躊躇してしまうのだ。週明けに学校に行くと、ワクワク顔のヤスに迎えられた。
「オッス!なぁ、なぁ、あの美人とはどうだったんだよっ!」
あの後、何度もヤスからLIMEは来てたけど、無視してたのに、面と向かって聞いてくるコイツ。
「何もないよ」
苦笑いしながら、1限目の授業の教科書を出そうとした。
「本当に?」
俺の前に座る佐合さんが、不審そうに俺を見る。
「なに、佐合さんまで。俺って、そんなに信用ないの?」
「そうじゃないけど」
「えー、茜ちゃん、せっかくの要のラブチャンス、潰しちゃだめっしょ!」
一人ノリノリのヤスに、佐合さんは冷ややかに見てる。
……ヤ、ヤス、ほどほどにしておかないと……佐合さんの目が怖いことになってるんだが。
きっと、百合さんは気まぐれに言ってきただけかもしれない、俺のこと揶揄って楽しんでただけなんじゃないか。
授業を終えて帰ろうとする頃には、そう思えるようになっていた。相変わらず、ヤスは俺の"ラブチャンス"を、応援するつもりのようだったけれど、俺があまりにも乗り気じゃないことに、文句を言いだす始末。
「だってよ、あの人、花咲女学園だろ?超ーお嬢様じゃん?それに、あんな美人、うちの学校にもいないじゃん」
「まぁ、確かに綺麗な人だけどさ」
「だろ?もったいねぇな」
「じゃあ、ヤスが付き合えば?」
「そこは、違うだろ」
「なんだよ、それ」
「俺には茜ちゃんがいるっ!」
佐合さんが部活を終えるまで、教室で待っている俺たち。ヤスのボディーガードはいまだに続いていて、俺のほうは、たんなるオマケになってるんだけれど。佐合さんから貰えるおやつ目当てで待っていたりする。
「あんな美人が、俺なんかに興味持つとか、全然思えないんだけど。」
「そうか?お前だって、けっこうイケメンの部類に入ると思うけどな」
「……お前に言われてもな」
ヤスとは大抵のことはなんでも話したり、じゃれあったりするけど、柊翔みたいにドキドキすることはない。それはヤスには恋愛的な感情がないせいなのか。
……海賊王みたいな顔のせいか。
「いや、俺がっていうか、何気に女子たちとかお前の話してるし」
「えっ?」
「お前、全然、周りのこととか気にしてないもんな」
「ん~、そうかな……」
男には興味ないけど、女の子に興味がないわけじゃない。実際、百合さんを見てドキドキはしたし。
……でも、柊翔のことだけは……気になってるんだよな。
ふっとした瞬間に柊翔の顔が思い浮かんでは消えて、そのたびに、どこか罪悪感に似たものが、胸の中に残ってしまう。
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